祖母はがん、母親は認知症
介護離職から1年5ヶ月後の2008年、工藤さんは36歳で再就職を果たした。
その後39歳で転職し、約1年後の2012年11月。「ばあさんが大量出血して、救急車で運ばれた!」という知らせが妹から届く。
当時祖母は89歳。2003年に80歳で「アルツハイマー型認知症」を発症してからというもの、足が不自由な69歳の母親が介護に勤しんでいた。
母親は祖母の大量出血に気づくとすぐに救急車を呼び、祖母に付き添った。祖母は即入院となり、母親は入院に関する書類を受け取り、家に戻る。ここまでは良かったが、その後の対応に問題があった。母親は書類の存在を完全に忘れてしまったのだ。その上、遠く離れた東京で勤務中の工藤さんに、「今日は何時に帰ってくるの?」と何度も電話したほか、午前中だけで10件以上留守電を入れるなど、明らかにおかしな行動をとった。
「祖母がアルツハイマー型認知症だと判明してからしばらく経った母が60代半ばくらいの頃、妹が、『最近、お母さん“も”ちょっとおかしい』との連絡をくれました。僕が母の認知症を意識するようになったのはその頃です。でもまだ『認知症110番』という無料電話相談を利用するくらいで済んでいました。よりによって、祖母が救急搬送されたことがきっかけで、僕は母が認知症であることを確信したのです」
仕事を休んだ工藤さんが駆けつけると、「お祖母さまは子宮頸がんです。ステージⅢaで、余命は半年ほどです」と医師に告げられた。「大量出血」は、子宮からの「大量下血」だった。
「レントゲン写真に映る腫瘍の大きさも衝撃的でしたが、余命半年はさすがにショックでした。その数日後、母は『アルツハイマー型認知症』と診断されました。89歳で余命半年の祖母、69歳で難病があり認知症が確定した母を同時に抱えることになった僕は、結局転職した1年1ヶ月後に、2度目の介護離職を決めました」
