「僕は会社に『やりたいことがあるので辞めたい』と嘘をついていたため、会社のみんなは新しい門出だと思っている。だから『おめでとう』なわけです。その時の花の写真は、『僕みたいにパニックを起こして介護離職しないでね』と伝えるために、『嘘をついて介護離職した証拠』として、介護の講演会の時に皆さんに見せています」

 夫婦共働きだった工藤さんは妻に、

「退職しても、今まで通り夫婦共通の口座には決まった額を入れ続けて、負担がかかるようなことはないようにする」

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 と約束した。

写真はイメージ ©AFLO

シャルコー・マリー・トゥース病

 半ばパニックになって会社を辞めてしまった工藤さんだったが、予想に反して父親は順調に回復していった。

「父はもともと、何でも自分でやろうとする人なのですが、脳梗塞を起こした後も、自分で気づいてタクシーに乗って病院を受診したんです。だから回復も早くて……。だんだん何を言っているのか分かるレベルで話せるようになってくると、『リハビリを頑張るから来るな! 帰れ!』って怒られるようになりましたね」

 退院後の父親に自分が必要ではないことがわかると、工藤さんは時間を持て余してしまう。空いた時間を母親と過ごすこともあった。

「もともと母は、僕の幼少の頃から歩き方が変だったのですが、その頃、外出するのを躊躇うほど足が悪くなっていました。時間がポカッと空いてしまった僕は、母に付き添って病院を受診することにしたんです。母は2週間ほどの検査入院となり、『シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)』という難病ということが判明しました」

「シャルコー・マリー・トゥース病」は、遺伝子の変異が原因で末梢神経が損傷し、手足の筋力低下や感覚の低下がゆっくりと進行する難病だ。症状としては、足の変形、筋力低下、特徴的な歩き方、ふくらはぎの萎縮などが見られ、10歳以前に発症することもあれば、50~60歳頃に発症することもある。根治治療法はなく、下肢の変形を矯正し、機能的な改善を目指す装具療法や、整形外科手術、筋力維持や回復を目的とした理学療法・作業療法が中心の、対症療法が行われる。

「父は1人で生活できそうだ」「母は難病だと分かったけど根治できる治療法がない」と分かった工藤さんは、再就職することにした。