担当する班を分け、暴力団と中国人の両面から捜査

 この事件については、中国人留学生3人による犯行であるとの結論が出ている。犯人特定に至ったのは、被害者の遺体に付けられていた、手錠とダンベルの販売ルートによるものだ。そこで私は、次のように言う。

「それからはブツ(物品の捜査)で、D(量販店名)に繋がった、と」

「はい」

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「たしか、防カメ(防犯カメラ)の映像は、見た目で、日本人じゃないとわかるものだった、と」

「はい」

「それによって、捜査の方針というか、目線は変わったんですか?」

 Qさんは首を横に振る。

「いや、両方ですね。やっぱり暴力団は暴力団で、ほんで、こっちはこっちで両面から。それぞれ担当する班を分けてました。そうしたら、(防犯カメラ)画面に出てた王亮はすぐに割れたですもんね。中国関係の留学生とかに当たってですね、もう、すぐに割れた」

 量販店にいたのが元日本語学校生の王亮(逮捕時21)だとわかった時点で、捜査本部は博多区の王が住むアパートに家宅捜索をかけている。

中国で無期懲役が下された王亮

「同じ部屋に元私立大留学生の楊寧(同23)が住んでいること、その段階でともに出国していることはすぐにわかったんですよね」

「ええ、そうです。わかった時点では出国していました」

 王の名前で借りられたアパートには、防犯カメラに写っていたのと同じTシャツが残されていた。そこには楊も一緒に住んでおり、2人は03年6月20日の事件発覚から4日後の24日に、福岡空港から中国・上海に向けて出国していたのである。捜査本部は現場から、2人の人物特定に繋がる微物を採取していた。私は確認する。

中国で死刑執行された楊寧

「たしか(久留米市で発見されたAさんの)ベンツ内に残された血痕と、ガサ(家宅捜索)をかけた部屋にあった微物が一致した、と」

「はい。DNAがね」

2人の容疑者から魏巍に繋がったのは偶然だった

 その後、楊の携帯電話の通話記録から、元専門学校留学生の魏巍(同23)の存在が浮上したと聞いていた私は尋ねた。

「王亮、楊寧から魏巍っていうのはすぐに繋がったんですか?」

「いや、あれはですねえ、魏巍は偶然ですよ。(魏に)殴られた女性の写真が所轄に残っとったんですよ。それで、当時は(関係者を)片っ端から逮捕しよったでしょ。なのでその写真をもとに……いや、違うか、魏巍が(中国に)帰る前に、その女性のとこに寄っとんですよ。俺は中国に帰る、と。で、その女性から通報を受けて、それで捜査員をやってですね、魏巍を任意同行しとるんです。もうバタバタで、緊逮(緊急逮捕)ですよ」

2019年に死刑が執行された魏巍

 このくだりは説明が必要となる。魏は日本を出国する直前の8月6日に、知人女性を殴った傷害容疑によって福岡市で逮捕された。この傷害事件は魏が同棲相手の女性宅で、喧嘩した末に相手を殴ったことから、彼女が警察に通報。その場では事件化されなかったが、傷害の証拠として撮影された写真が所轄署に残されていたのだ。

 出国しようとする段階で魏のAさん一家殺人事件への関与は不明だったが、楊や王と繋がりのある人物であることから、捜査本部内で身柄を押さえておくべきかどうかの協議がなされたのである。その結果の逮捕は、念のためともいえる措置だった。Qさんは言う。

「あと何時間かで飛行機に乗るところをキャンセルさせたんです。際どかったですね。そのまま乗って(中国に)行かれとったら終わりやったですね。その段階では魏巍はまったく(捜査線上には)乗ってないです。(王や楊と)交遊関係があるということくらいです」