その日は唐突に訪れた――。

「……この事件は、誠に身勝手な理由から、幸せに暮らしていた8歳と11歳の子どもを含む家族全員を殺害し、極めて冷酷かつ残忍な事件であり、なんら落ち度のない4名もの尊い人命を奪った結果は、極めて重大です。

 

 命を奪われた被害者はもちろん、ご遺族の方々にとっても、無念このうえない事件だと思います。

 

 そして、裁判において十分な審理を経たうえで、最終的に死刑判決が確定したものです。

 

 以上のような事実をふまえ、法務大臣として、慎重な上にも慎重な検討を経たうえで、死刑執行の命令を発したものであります」

 2019年12月26日、同年10月31日に就任したばかりの森雅子法務大臣(当時)は、福岡拘置所で死刑を執行したことを発表した。

 死刑囚の名は魏巍(ウェイウェイ)、中国河南省出身の40歳である。

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2019年に死刑が執行された魏巍

親しくした相手の死刑が執行されて

 外国籍の死刑囚に刑が執行されたのは、2009年以来10年ぶりのこと。最高裁第一小法廷で彼の上告が棄却され、11年11月10日付で死刑が確定しているので、それから約8年1カ月後の執行だ。そしてその年月は、私と彼が音信不通となった期間と重なる。

 彼の関わった事件の取材をしていた私は、中国に住む彼の両親に息子が犯した事件のことを伝え、会いに行っている。さらにその後、一審を控えた魏本人と福岡拘置所での面会を重ね、手紙のやり取りをしていた。それは、最高裁で刑が確定するまで続く。

魏巍から筆者が受け取った年賀状

 殺人犯であり、死刑判決が確定するだろうことはわかっていた。だが、そのように親しくした相手の死刑が執行されるのは、私にとって初めてのことである。面会室のアクリル板越しではあったが、交流してきた相手の命が絶たれてしまったとき、胸の奥に鉛が埋め込まれたような気持ちになるのだと知った。

 私と彼との繋がりについて説明するためには、まずは21年前の事件発生時に遡る必要がある。