かつてオスカー監督賞も手にしたスティーヴン・ソダーバーグは、一度引退を宣言したのがウソのように、すっかりフル稼働に戻っている。今年1月にはホラー映画『プレゼンス 存在』が、そのわずか2カ月後には今作『ブラックバッグ』が、立て続けに北米公開された。このスタイリッシュな最新作で主演を担うのは、マイケル・ファスベンダー。
「2011年の『エージェント・マロリー』で楽しい経験をさせてもらって以来、スティーヴンとまた組みたいと願い続けてきたんだ。脚本は知的かつファニーで、あっという間に読み終えてしまった。これをスティーヴンがどうビジュアルで語るのか、想像してはわくわくしたよ」
「ジョージにとってキャスリンは命なんだ」
仲間内の誰が、どんな狙いで嘘をついているのか? 最後まではらはらさせるストーリー。局内カウンセラーを演じるナオミ・ハリスも、「たくさんの登場人物がいるにもかかわらず、その誰もが主人公になれるほどキャラクターがしっかり定義されている」と、デヴィッド・コープ(ソダーバーグの最近作2本も執筆)の脚本を絶賛する。だが、中心となるのはあくまでジョージ(ファスベンダー)と妻キャスリン(ケイト・ブランシェット)の関係。ファスベンダーが配信ドラマ『ザ・エージェンシー』(24年~)に続いてスパイものに出たのも、そこに惹かれたからだ。
「もちろんこの世界が面白いというのもあったけれどね。この職業に従事する人は、どうしてその選択をしたのだろう。犠牲にすることが多く、人間関係を保つのも難しいというのに。そんな中で、これはひと組の夫婦に焦点を当てる。妻は裏切り行為をしているのかもしれない。ジョージはそれを調べていくが、妻に対する忠誠心は変わらない。彼にとって妻はソウルメイト以上の存在だから。キャスリンもジョージに同じような思いを持っているだろうが、ジョージにとってキャスリンは命なんだ」
妻以外に心を許さないジョージは、常に感情を隠している。そんな役に入っていく上で手がかりにしたのは、あくまで脚本。

