「ステージの壊し屋」が見せる破壊パフォーマンス
さらに、ザ・フーと言えばステージの壊し屋だ。この作品でも至る所で彼らの破壊パフォーマンスを堪能できる。ピートがアンプを倒し、ギターをステージの床に叩きつける。お調子者のキースがドラムセットを蹴り倒し、投げ飛ばす。もはや破壊自体が演奏の一部となり“伝統芸”と化している。歌舞伎なら「待ってました!」と掛け声が飛ぶところだ。
「俺たちは質を伴わないただの人気取りだ。ステージで大騒ぎすればマヌケな聴衆は興奮する。単純だよ」
ピートは自虐的に語る。観客もこれでカタルシスを味わうからやめられない。ある時ギターを壊さなかったら、客が“ギターを壊せよ、ピート!”と叫んだという。
「だって客の大半がカネを払うのは、俺が暴れてギターを壊すのを見たいからだ」
こういうバンドは女性には受け入れられづらいだろう。スタジオに集まった女性が「演奏から感じる色気が大事では?」と質問すると、ピートが率直に答えている。
「俺たちはかなり色気のないバンドだと思う(観客笑)。本当だよ。前からそこが悩みの種なんだ。だからファッションに凝り、物を壊す。普通の魅力に欠ける分、何かが必要だろ」
ザ・フーは男臭い。モテないことをざっくばらんに認めるのも魅力だ。
バンドに入って15年、メンバーと言われたことはない
バンドの初期、1960年代の1週間の収支記録が紹介される。これが実に面白い。週の売り上げは370ポンド(当時のレートで約37万円)。ところが支出は1946ポンド(194万円)。なぜこんな大赤字なのかといえば、リストには「ギターやドラム、マイクの交換費用」として785ポンド(約78万円)が計上されている。さすがステージの壊し屋だ。ここでピートがギター壊しの裏話を明かしている。それは映画で観ていただくとして、このリストをよく見ると支出欄にこんな項目があるのが目を引く。


