河合優実が繰り返していた“仕草”の意味
時が経っても蘭子は豪のことを大切に思い、家には彼が仕事の時に羽織っていた半纏をかけていた。
そして、嵩やのぶを通して八木(妻夫木聡)に出会い、八木の会社の主力商品であるビーチサンダルのキャッチコピーを任されるなど、一緒に仕事をしていくように。その中で、八木に惹かれている自分を自覚するがこの恋もまた、もどかしい。
蘭子は豪と八木への思いにうまく折り合いをつけることができず、意図的に八木と会うのを避けるようになってしまうのだ。
蘭子の思いを察し、なかなか会社に顔を見せない蘭子のもとへ足を運んだ八木とふたりきりになるシーンは、朝ドラらしからぬ大人の雰囲気が際立つ場面だった。
「雑誌を届けにきた」と言うわりには、いつになく真剣な八木とぎこちない蘭子。引っ越しを間近に控え、手伝えることはないかと申し出る八木に、蘭子はなんとかできることを探し、ジャムの瓶のふたを開けてもらう。
この場面で流れるのは、音楽ではなくどこか緊張したようなふたりの息遣いだ。そのうち、にわか雨が降り出し雨音がBGMとなっていく。溢れ出すように突然降り出した雨と仄暗い雰囲気は、蘭子の気持ちを表しているようだった。さながら映画のようなそのワンシーンが心に残った視聴者も多いのではないだろうか。
河合はどこか陰を感じさせる雰囲気をまとっており、場の空気を一変させる力を持っている。だが、彼女の演技に引き込まれる理由はそれだけではない。よく見ると細かい所作にも気を配っている様子が窺えるのだ。
豪に思いを伝えるときも、八木を前に言葉を選ぶときも、ふと髪に触れる仕草やこめかみに手をやる動作が重なる。感情を抑えきれない瞬間に自然と出る仕草を役に落とし込んでいることがわかり、彼女の役作りの深さに驚かされる。
若手もベテランも演技合戦を繰り広げていた朝ドラ『あんぱん』。その中でも際立った演技を見せた河合は、今後さらに飛躍していくことだろう。彼女の演技がもたらす余韻を、これからも見届けたい。



