ちょっと贔屓が過ぎないか。「今日の蘭子」のことである。朝ドラこと連続テレビ小説『あんぱん』(NHK)で河合優実が演じている蘭子について、『あさイチ』で博多華丸が一時期、蘭子のことばかり発言していた。それに「今日の蘭子」というコーナー名のようなものまでついていたのだ。
蘭子の仕草を細かくチェックする華丸に大吉が「気持ち悪い」とたしなめ気味にツッコんだこともある。もう少しまんべんなくほかの俳優のことも褒めてほしかったが、八木(妻夫木聡)との場面の、別のドラマかと思うような濃密さには、ついつい目がいってしまう。
念のため説明すると蘭子は『あんぱん』の主人公ではない。主人公・のぶ(今田美桜)のすぐ下の妹で三姉妹の次女である。河合はヒロインオーディションの最終審査まで残り、その結果、妹役を獲得した。朝ドラに主人公のきょうだいはホームドラマとしては必須であり、人気が出て、妹役を演じた俳優がやがて朝ドラの主人公になることもある。『花子とアン』(14年度前期)の妹役から『まれ』(15年度前期)の主人公になった土屋太鳳や『とと姉ちゃん』(16年度前期)の妹役から『おちょやん』(20年度後期)の主人公になった杉咲花が例としてあげられる。
それにしたって今回の蘭子の注目度は群を抜いている。妹役時代にここまで話題にされる俳優はあまりいないのではないだろうか。余計なお世話だが、今田美桜が『あさイチ』にゲストで来たら華丸はどうするのだろうか(最終回の放送後、プレミアムトークで登場する)。
「俺たちの河合優実」が「みんなの河合優実」に
どうしてこうなったか。24年頃から河合優実ブームが起きているからだ。24年、主演映画『ナミビアの砂漠』(山中瑶子監督)が第77回カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞し、同じく2024年の主演映画『あんのこと』(入江悠監督)では日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した。25年8月には、出演した映画『旅と日々』(三宅唱監督)が第78回ロカルノ国際映画祭で金豹賞を受賞し、ワールドプレミアに出席した。国内外で注目されているのだ。
ちょっと前までは「知ってる人なら知っている♪」『怪傑アンパンマン』の歌の歌詞ではないが、それが河合優実だった。デビューは2019年。21年には映画の新人賞を数多く受賞し業界や見巧者からは注目されていた。23年、NHKBSプレミアムの連続ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』で主演。そして、先述のような24年の快進撃。
そのうえ全国区の人気を得たのは同年、宮藤官九郎脚本の『不適切にもほどがある!』(TBS系)で80年代の純情ヤンキー少女を演じたことがきっかけだった。ここでは『あんぱん』でヤムおんちゃんを演じている阿部サダヲの娘役で、才人・阿部相手に一歩も引かず、丁々発止の親子喧嘩からハートフルな親子愛まで幅広く演じて、多くの視聴者に愛された。時々あるミュージカル仕立てのシーンでの歌や踊りは堂々たるもので、若き逸材現るという感動を世間にもたらした。
俺たちの河合優実がみんなの河合優実になった、ちょうどその絶好のタイミングに朝ドラ出演である。しかも蘭子の少女時代の悲恋エピソードがまた鮮烈だった。ドラマの終盤、妻夫木聡演じる八木との大人の恋模様が視聴者をざわつかせているが、少女時代に一度、身を焦がす恋をした。これがドラマ前半のハイライトとなった。




