河合優実が俳優として一気に駆け上がった理由
戦前の着物姿、戦後の洋服姿などの着こなしや佇まいが、当時の写真や絵などを彷彿とさせるようで、おそらく見え方を研究している。昔のことはわからないし、台本に書かれたことだけ信じて演じるというやり方もあるだろう。だが河合は、当時の人の気持ちはわからないが、現存する写真や絵画の仕草を取り入れることで、当時の人の感情に寄り添っていく。そうやってその時代と現代の架け橋になってくれているような気がする。
「着物を着ている人の生活感にリアリティを出すことが最初は難しかったです。どうしても自分自身の、現代人の体の使い方になっているなと、とくに最初の頃に自分の姿を見て思うことがありました。でも、着物を着ていると自然と出てくる仕草や姿勢があるんです。例えば、裾を直す仕草だとか。そういうことがとても勉強になりました」
(出典:ダイヤモンド・オンライン『朝ドラPが一発で惚れた!蘭子役・河合優実が選考中に見せた「気になる行動」【あんぱん】』2025年5月21日)
着物の着方や仕草の特徴を強調(デフォルメ)することで、見るほうに情報を伝えてくれる。
河合優実が俳優としてここまで一気に駆け上がってきたことには、こんなふうに表現を突き詰めようとする強い情熱がある。文春オンラインの過去記事にも取り上げられているが、高校時代の文化祭で、ミュージカル『コーラスライン』に影響された演劇をつくった。彼女の放ったセリフのなかに「夢ぐらい見させろ」というものがあり、それを聞いた母親は娘が芸能の道を目指すことをゆるしたそうだ。
河合が魅入られた『コーラスライン』は無名のダンサーたちがバックダンサーのオーディションに挑む物語で、それぞれが自分の思いを熱く語り、歌い踊る。たとえトップスターではなくてもステージに立って踊りたい。そう夢見る人たちの物語に突き動かされた10代の河合の内側にはふつふつとたぎるマグマがあったことだろう。
映画の登場人物たちはあくまでもバックダンサーだが、河合優実はそうじゃない。「コーラスライン」というバックダンサーとメインダンサーとを隔てるラインを超えて、いまセンターに躍り出ている。
「落ち着いているね、と言われるようになったのは、高校を卒業して仕事をはじめてからです。幼い頃から一人で遊んでいるようなところもありましたが、学校でリーダーをやることもありましたし、家でもおしゃべりなほうです。自分では変わった感覚はなくて。いろいろな面があって、何かのきっかけで落ち着いたところが前に出てきたのかなと思います」(出典:前掲、ダイヤモンド・オンライン)
10代のとき演劇の世界を夢見てキラキラしていた。その感じは映画『ちょっと思い出しただけ』(22年 松居大悟監督)を見ると想像できる。河合の役は、ダンサーだった主人公(池松壮亮)の後輩で、ダンスの才能をめきめき伸ばしている人物。先輩にも積極的に接近してきて、彼の恋人(伊藤沙莉)をやきもきさせる。クセのある役の多い河合だが、この役は等身大で、若さと才気と希望にあふれた河合優実そのもののようにも見える。
いずれにしても伸び盛りであることは紛れもない事実。彼女のなかの情熱とポテンシャルが抑えきれずに全身からにじみ出て、視聴者の心を捉える。でも決して暑苦しくない。薄口の顔立ちで浮世絵の女性のようにひんやりして見えて、唇だけがぽてっと蕾のようだ。
冷静と情熱、ナチュラルなところと様式性、足し算と引き算のバランスがいいのは河合優実の恵まれたところであり、これぞ令和に愛される人なのではないだろうか。
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