社会からのプレッシャーが生む夫婦の溝
「このふたりのキャリアに対する野心を見せたかったからだ。彼らは自分の夢を追いかけて海外に移住するような人たちなのさ。それに、結婚生活に問題が出てきた時、家族やきょうだい、昔からの友達が身近にいないという状況にもしたかった。夫妻は自分たちだけで問題に直面することを強いられるんだ」(マクナマラ)
夫テオは建築家、妻アイビーは料理家。ある時、テオが仕事で思いもかけぬ失態をやらかしたところへ、アイビーのレストランが大きな注目を集め、家庭内のバランスが変わっていく。
「アイビーは落ち込んでいる夫を支えるし、テオは家庭のことを率先して担当するのを厭わない。だがテオは、それまで仕事に注いでいた執着を子育てに向けるようになる。甘いものを食べるのを許さないとか、優れたアスリートに育て上げようとするとか。キャリアで自分を証明できなくなった彼は、別の形で自らの価値を見せつけようとするんだよ。失敗に目を向けたくなくて。彼が自分のやり方を貫くがため、妻は家庭内でよそ者になっていく。コミュニケーションが足りないがために、夫妻の溝が深まっていくんだ」(カンバーバッチ)
そこもまた現代の風刺だと、マクナマラと監督のジェイ・ローチは口をそろえる。
「現代人は、仕事など外から見えるものを通して承認されたいと思いがちだ。テオは良い父親であるだけで十分なのに、それで満足しないのは、世間ではなく、テオ本人なんだよ。仕事で成功し、素敵な家に住んでいないと幸せではないという価値観を、社会は押し付けてくる。本当に大事なのは、人としてどう毎日を生きるかなのに」(マクナマラ)
「自分をブランドにしなければというプレッシャーもあるよね。最初は決してそんなものを求めていなかったアイビーも、いつしかブランドを確立していくことになる。この映画はそこも笑いにする」(ローチ)
最初はあった思いやりの気持ちは次第に薄れていき、ついにはオリジナルのタイトルにあった通り「戦争」へと発展。過激な争いのシーンに関して、カンバーバッチ、コールマン、ローチらは、十分な配慮をした。
「僕たちは編集作業にもかかわっているし、そこは慎重に挑んだよ。現実の世界ではこの映画で描かれることが、コメディとほど遠い状況で起きることがあるものだと知っているからね。このふたりはお互いを愛している。なのに、とんでもなく間違ったほうに行ってしまった。お互いが見えなくなってしまって、あんな行動に走るんだ。それがわかるよう、正しいトーンを追求したつもりだ」(カンバーバッチ)
コールマンは、『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(07年)や『Fleabag フリーバッグ』(16年~、ドラマ)などでコメディの才能を見せてきたが、シリアスな役で知られるカンバーバッチについては、新しい領域。だが、不安はなかったと、ローチは振り返る。


