マイケル・ダグラスとキャスリーン・ターナーが主演した『ローズ家の戦争』が公開されたのは、1989年。ダニー・デヴィート監督(兼助演)による、離婚を目前にした夫妻がどちらがマイホームを手にするかで争うブラックコメディだった。
それから36年。イギリスが誇る名優、ベネディクト・カンバーバッチとオリヴィア・コールマンが共演する『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』は、共通する部分が多数ありながらも全く違うスタイルの作品となった。男女の役割、キャラクター設定、ユーモアのニュアンスまで、現代にふさわしくアップデートされているのだ。
「何か一緒に映画を作ろう」から始まった
プロジェクトの始まりは、知り合いでありながら共演したことがなかったカンバーバッチとコールマンが「何か一緒に映画を作ろう」と決めたこと。
「お互いに共演したいという気持ちは、僕たちの友情が生まれた頃からあったんだが、サーチライト・ピクチャーズ会長だったデビッド・グリーンバウムがそれを知るとすぐに現実味を帯びた。ちょうどオリヴィアが『女王陛下のお気に入り』で組んだばかりだったこともあり、トニー・マクナマラ(脚本)もその仲間に入った。『ローズ家の戦争』みたいな話はどうかと提案したのは、彼なんだ。それはすばらしいアイデアだと僕たちは思い、トニーがどんなものを書いてくれるのか楽しみに待つことにした。僕とオリヴィアはプロデューサーも兼ねているのでもちろん意見は言ったが、独特で複雑なトーンを持つ脚本が生まれたのは、すべて彼のおかげだ」(カンバーバッチ)
「私たちは『ローズ家の戦争』を気に入っている。だから、リメイクをするのではなく、そこを出発点にして、新たな方向に持っていこうとしたの。そもそも、芸術とはどこかからインスピレーションを得るもの。絵画であれ、音楽であれ、アーティストが意識している、していないにかかわらず、何かに影響を受けていることは多い。私たちは、あの優れたオリジナル映画にインスピレーションを得てこれを作ったのよ」(コールマン)
マクナマラが書きたかったのは、「離婚の話ではなく結婚の話。フィジカルなコメディは(それが得意な)ダニー・デヴィートがすでにやっていたから違う方向を選んだ」という。主人公ふたりがイギリス人なのは、企画スタートの時点で主演が決まっていたことを考えれば自然だが、舞台をアメリカ西海岸にしたのは、ストーリーのためだ。

