中学の成績はトップクラス、高校では生徒会長に

 通っていたのはセレブ幼稚園で、保護者同士の見栄の張り合いが絶えなかった。そんななか母は、寝坊をしがちで、登園時間に間に合わないことが頻発してママ友から仲間外れにされていた。その結果、周囲が娘に小学校受験をさせることを知らされず、準備が遅れて自分の娘だけ公立小学校に進学させるはめになった。きっとそれが悔しかったんだよね。だから私を立派に育ててママ友たちを見返したかったんだよね──琴音は母が虐待を繰り返した持論を当時の自分に問いかけるようにして語った。

 当時の琴音は「自分が悪い」と思い込んでいた。やりたい習い事はすべてやらせてくれたり、お弁当には琴音の好きな食べ物をいっぱい詰め込んでくれたりしたからなのか、虐待を母なりの愛情表現として受け止めていた。虐待は止んだが、母なりの庇護意識からなのか、その後もママ友たちへの復讐心を元にした過剰なまでの教育は続いた。娘が立派に育っている。なら、もっとキツい指導を与えよう。おかげでリストカットしたり、不登校にもなったけど、そんなのよくあることだし、家庭教師をつけてテストだけ受ければ問題なし。私の教育方針は間違ってないはずだ。

ADVERTISEMENT

 事実、再び登校し始めた中学時代の琴音の成績は常にトップクラスで、高校では生徒会長にもなった。琴音は琴音で悲しませまいとして必死に母の期待に応えたのである。結果として、琴音は晴れて、母も自分も望んだ有名私立芸大に合格する。