「いま、毎月15万から20万もらってる人もいるよ。それが3年続いてる」
琴音さん(仮名・舞台女優)は、路上で客をとる「たちんぼ」だけでなく、ときには詐欺まがいのやり方で男性からお金を引き出していた。たとえば「ココイチで一緒にカレーを食べただけで15万円もらった」こともある。こうした方法で集めたお金は合計2000万円近くにのぼる。男性たちはなぜ彼女に大金を渡してしまうのか――。ノンフィクションライターの高木瑞穂氏の文庫『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全3回の3回目/最初から読む)
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「妊娠した」と偽って、男性客からカネを騙し取る
──ところで、ねえ、前に演劇の公演に誘ってくれたじゃん。手口って言うと悪いイメージだけど、誘い方がうまいというか、知らず知らずのうちに『チケット買うよ』と言わされていた自分がいたわけよ。
「別に騙そうなんて思ってないんだよね。ただ、自分が頑張るから、好きな友達とかお世話になってる人には、ちょっと悪いけど本心から見てほしいと思って誘うんだよね。チケットバックもあるんだけど、お金が欲しいとかはない。演劇で得たお金は大切に取ってある。演劇でのお金は、普通のお金以上に大切なものだから」
──売春で得るカネとは違うわけだ。
「なに言ってんの。重みが違うよ」
──思ったんだけど、その会話術は裏引きとかにも生かされてるの?
「うん。私、詐欺師だからね」
琴音は、これはあまり言いたくない、といった様子で苦笑いした。だが、すぐにネタになるなら教えてあげたい、といった思いになってくれたようで、「けっこうゲスいよ。犯罪だよ」と前置きして明かした。
「妊娠したって言って、友達と客との3人で会う。そこで泣き落としする。男ってさあ、女ふたりで来られて泣かれると対処できないし、かつコッチは冷静でいられる。だからコッチは女ふたりがマストで、50~100万もらって、その友達と折半する」
──でも、最初は向こうも信じないよね。
「別の友達がガチで妊娠してて、その子の検査薬を借りて私が妊娠したことにして。ま、そうして周到に用意はしているけど、実際に『検査薬見せろ』って言う人はいないんだよね」
──普通に払うんだ。
「うん。私、ウソ泣きが上手らしくみんな信じてた。詐欺する相手と会う場所はカラオケボックスが多いかな。『カラ館(全国展開するカラオケボックスチェーン・カラオケ館)』に歌を歌いに行ったことあんまない。カラ館でやって、喫茶店でカネわけて。そんな感じでふたりぐらいハシゴして、ひとり100万ぐらいずつ詐欺したことが何回かある」
──でも、そんなに現金を持ってない人もいるよね。
