「激安店で、勤態(勤務態度)は悪いけど、出勤すれば満枠(予約で埋まる)なんです。それに、マイナー劇団だけど舞台とかにも出てるんですよ」
裕福な家庭に生まれながら、仲間の影響で新宿の公園に立ち、街娼(たちんぼ)になったある女性(取材当時31歳)。風俗店にも所属し、1日5万円以上稼ぐこともできるのに、なぜよりリスクの高い街娼を優先するのか? 彼女の特殊な事情を、ノンフィクションライターの高木瑞穂氏の文庫『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全3回の1回目/続きを読む)
◆◆◆
彼女が「たちんぼ」になった理由
「みんなレディースサウナを拠点に売春してた。出入り自由の女子刑務所みたいな感じで、犯罪者同士が逮捕されたあとにするように、楽してお金を稼ぐ手口の情報交換の場になっていた。あの子たちって、顔付き(「顔写真付き」の略)の身分証がないから風俗店で働けないの」
──最初はノリで?
「(街娼仲間の)未華子が『いまから立つ』って言うから、暇だったしついていこうかな、みたいな。最初は未華子とふたりで立った。で、未華子が『新人だよ、この子』って常連客に紹介してくれて、初日からすぐ客がついた。未華子は公園歴は4年。歴も年も私より1年先輩です」
──月に何日くらい立つの?
「ほぼ毎日です」
──いつも何時から何時まで立つの?
「毎朝5時に目が覚める。起きて、新宿のホテルに泊まってるときは、スマホでハピメ(出会い系アプリ『ハッピーメール』の略)開いて、すぐ会える人がいたらそのまま待ち合わせてイチゴー(1万5千円)くらいで1件こなす」
──安いね。
「いや、いまはイチゴーでも高いほうだよ。ゴムあり(コンドーム着用の有無)かどうかまではわからないけど、友達は7千円とかでやってるから。私はゴムありの場合もあれば、ナシの場合もある。で、東新宿の定食屋で朝ごはん食べて、ホテルに戻って小一時間寝て。起きるのは昼の12時ごろ。メイクをして、とりあえず出会いカフェのタイムラインを見る」
出会いカフェとは、大部屋にいる女性客を男性客がマジックミラー越しにのぞき見をして、気に入った女性を店員に伝えて半個室で落ち合い、店外デートの交渉をする風俗店である。来客する者たちは男女共に援助交際目的が多く、デートではなく売春交渉の場になっているのは、いまや公然の秘密だ。
