自民党総裁選の折り返し地点を迎えた中、議員票で2位につけたとされる林芳正官房長官が、ある討論会での「素直すぎる」行動について振り返った。9月27日のネット討論会で「自分以外で誰が総理にふさわしいか」と問われた際、他の候補者が躊躇する中、林氏だけが隣に座る茂木敏充氏を指さしたのだ。
(初出:「文藝春秋PLUS」2025年9月27日配信)
「正直すぎたかな」と後悔の念
「正直すぎたかなと思ったんですけど、一応、みんな『うーん』って言ってるんで。じゃあ、目つぶってやりませんかって言ったんだけど」
林氏は苦笑いを浮かべながら、あの瞬間を振り返った。討論会では全国の視聴者が見ているにもかかわらず、つい素直に反応してしまったという。「考えてみりゃ皆さん見てるわけだから」と、後になって気づいたと語る。
茂木氏を選んだ理由について、林氏は長年の協働関係を挙げた。「やっぱりずっと一緒に仕事してきましてね、もう長いんですよ」。茂木氏が政調会長時代の代理を務めたり、政策立案の現場で密接に協力してきた経験がある。
討論の際も、茂木氏が先に発言すると「全部言われちゃう」ような状況が頻繁に起こるという。逆に林氏が先に発言しても、同じような内容を茂木氏に「言っちゃって」しまうほど、政策的な視点が重なることが多い。
政策通同士の共鳴関係
林氏が茂木氏への信頼を語る背景には、両者が政策通として長年にわたって築いてきた関係がある。「私を除いたとするとね、まあ、茂木さんなのかなと」という判断は、単なる個人的好意ではなく、政策立案能力や実務経験に対する客観的な評価に基づくものだ。
ただし、林氏は「人によってはなんかその先に小林さんもいたんで、どっちかわかんなかったっていう方もいらっしゃった」と付け加え、会場の配置上、小林鷹之氏を指していると誤解された可能性もあったことを認めている。
討論番組での「分かりやすさ」への配慮
この一件について林氏は、討論番組では「なるべく皆さんに分かりやすく」答える必要があるとの考えを示した。政治家同士の駆け引きや建前論ではなく、率直な意見を求められる場面では、多少のリスクを承知で正直に答えることを選んだのだという。
この素直な反応は、林氏の人柄を表すエピソードとして注目を集めた。総裁選という政治的な駆け引きが渦巻く場面でも、長年の同僚に対する率直な評価を隠さない姿勢は、有権者にとって新鮮に映ったかもしれない。
政治の世界では建前と本音が交錯することが多い中、林氏の「正直すぎた行動」は、政治家の人間性を垣間見せる貴重な瞬間となった。茂木氏との信頼関係の深さと、討論会という公の場での率直さが交差したこの一幕は、総裁選の舞台裏を物語る象徴的なエピソードといえるだろう。

