『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』

 本作も「家」が重要な舞台になっているブラック・コメディだ。リメイク作であることも共通している。

 1989年のハリウッド映画『ローズ家の戦争』のリメイクなのだが、熟年夫婦の離婚騒動が題材なのと2人のファミリーネームが「ローズ」であることを除くと、全く別の作品になっているといっていい。

 特に大きく変化が起きているのは、夫婦の関係性だ。89年版では出世街道を突き進む夫に対し、子育てを終えて自身もビジネスを始めた妻の愛情が冷めていくという展開だった。それに対して本作は、まだ子育ての真っ最中という設定。ある嵐の夜を境に建築デザイナーの夫は失脚し、料理人の妻はプロとして大人気になっていく。そして、仕事を失った夫が子育てをし、妻は外の世界にどんどん羽ばたく。だが、夫婦ともにその愛情は決して冷めていない。

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『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』

 2人の間に横たわるのは決定的な断絶ではなく、さまざまなすれ違いの積み重ね。その過程が、丁寧に紡ぎあげられていく。そのため、2人の争いを観ていると、ただ楽しいだけでなくどこか切ない気持ちにもさせられるのが大きな魅力だ。

 そして、この夫婦を演じるのが、オリヴィア・コールマンとベネディクト・カンバーバッチという当代の英国を代表する2大名優。コンプレックスや惨めさのために言動が歪んでいく夫。そんな夫に愛情を抱き続けながらも、応戦せざるをえない妻。そうして溝が徐々に深まっていく様を、2人とも実に繊細に演じきっている。

 また、2人が織り成す、英国人らしい強烈な皮肉交じりのなじり合いは圧巻。このレベルの俳優たちならば、セリフのやり取りだけで最高のエンターテインメントを成すことができるのだと教えてくれた。

『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』

監督:ジェイ・ローチ/出演:オリヴィア・コールマン、ベネディクト・カンバーバッチ、アンディ・サムバーグ、ケイト・マッキノン/2025年/アメリカ/105分/配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン/©2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved./10月24日(金)TOHOシネマズ 日本橋、新宿ピカデリー他全国公開