互いの欠落を埋める関係

綿矢: 最後にひとつ。お互いを思いやる気持ちは、どうすれば芽生えると思いますか? 「光のとこにいてね」という言葉からは、相手に幸せでいてほしいという気持ちがすごく感じられたんです。結珠と果遠はごく自然にお互いを思いやっていますが、そうした気持ちはどうやって生まれるのかな、と。

 

一穂: 結珠は「愛されたい」と願う子供だった時に果遠に出会い、彼女にいい子ちゃんとしての公平さや優しさを与えたんです。果遠にとってはそれが、「愛された」というより「この人を愛していいんだ」と許可されたように感じたんじゃないでしょうか。そうして果遠が捧げた愛によって結珠も満たされ、さらに打ち返してあげたくなって……。鏡のような関係なのかなという風に思っています。

綿矢: 愛を注ぎたい人と、それを受け入れる人というような……。

ADVERTISEMENT

一穂: そうですね。果遠は野生児のようなところがあるので、愛されない寂しさより、自分が愛したいと思える人がいないことに寂しさを覚えるタイプなんだと思います。

綿矢: そういう、ちょっと欠けているところのあるふたりだからこそ、ラッキーな出会いだったのでしょうか。

一穂: たまたま、お互いの欠けている部分がパズルのピースのように、がっちりとはまったのだと思います。

綿矢: うーん、そっか。自分が誰かを愛したいタイプか、愛されたいタイプか。それを知ることが、思いやりの第一歩なのかも。

一穂: 自分の欠落を知る、ということかもしれませんね。

激しく煌めく短い命

綿矢 りさ

文藝春秋

2025年8月25日 発売

光のとこにいてね (文春文庫)

一穂 ミチ

文藝春秋

2025年9月3日 発売

次の記事に続く 「20代の体に張りのある時代はすっ飛ばして……」ライフステージとともに色合いを変える関係性こそ、女性同士を描く醍醐味。綿矢りさ×一穂ミチ対談【後編】