女性同士の関係を書くこと
綿矢: 一穂さんにとって、同性同士の関係と異性同士の関係を書く上で感覚の違いはありますか?
一穂: 同性同士の方が、距離の縮め方や関係性を「決めなくていい」という自由さがあって書きやすいかもしれません。男女だと、どうしても結婚という制度がゴールとして設定されていて、そこに向かわないなら向かわないで理由が必要な気がしてしまうんです。それに、いい年をした男性ふたりが街なかでイチャイチャしているとまだまだ周りの目が気になるかもしれませんけれど、女性同士なら自然に見える。そういう意味でも書きやすいですね。あと、そもそも私自身があまり男女の恋愛に興味がないというのもあるのかも。
綿矢: 『光のとこにいてね』は結婚という問いがないまま一緒にいたからこそ、あれだけ濃厚な関係になれたのかもしれませんね。男女だと「こんなに長くいるなら結婚するの?」というムードが漂ってしまいますから。
一穂: あのふたりは愛情の原液のようなものをずっと温め続けているだけなんです。普通は何かで割って、「友情の味」や「恋愛の味」になってしまいますけど、ふたりはそうはせずに「原液」のままで書こうと思っていました。
綿矢: いいタイミングで再会を繰り返すことで、長いスパンでふたりの成長を見せられるのもいいですよね。子供時代を知っているので、時間を重ねて再会するふたりに運命を感じて……。女性同士だからこそ、ライフステージが進む中での再会が身に染みる。お互いの人生が違う方向に進みながらも、似ている部分があるのが読んでいて楽しかったです。
