ふたりの相性の悪さが小説を書かせてくれた

一穂: 私も『激しく煌めく短い命』第二部の32歳という設定は絶妙だなと思いました。綸は家庭を持つことを考えて焦りが出る年齢だし、久乃もひとりで生きていくことに不安が大きくなる頃。この年齢設定は最初から決めていましたか?

綿矢: うーん、20代の体に張りがある時代はすっ飛ばして書きたいというのがありました。今はそうでもないと思うんですけど、当時は30歳を超えると焦り出すという風潮があったので、その年代のふたりを書きたかったんです。女性同士の関係性は年齢によって色合いが変わっていくのが面白いですよね。「今、この子はこんな女になっているのか」という視線を通して自分を見つめ直すような関係性が書けるので。

一穂:  中学時代から、綸と久乃は一緒にはいるんだけど、決して性格が合うふたりではなかったですよね。

ADVERTISEMENT

一穂ミチさん

綿矢: そうですね。でも、通じ合っていないからこそ関係が成熟するのに時間がかかった。その相性の悪さが、私にこの小説を書かせてくれたと思っています。

一穂: セクシャリティに対する考え方の変遷も、時代を感じさせますよね。第一部の頃は、みんな何の罪悪感もなく「レズ」という言葉を使っていましたもんね。 

綿矢: あの頃に比べると、今の方がデリカシーはありますよね。

一穂: そうなんですよね。デリカシーはあるけど、制度として目覚ましく発展したわけではないという。

綿矢: 『光のとこにいてね』が「百合小説」と呼ばれることについてはどう感じますか?

一穂: 百合が好きな方に楽しんでいただけたらすごく嬉しいし、光栄です。ただ、男女の恋愛小説をわざわざ「男女小説」とは言わないわけですから、あまり気にしなくてもいいのに、とも思います。

綿矢: 私も百合小説というジャンルを特別に読むわけではありませんが、この作品はすごくキュンキュンしまして読めたんですよね。ジャンルに興味がなくても、人とひとの関係性に興味がある人なら、すいすいと読める小説だと思います。キスシーンなども、馴染みのない読者がつまずかないさりげなさがあって、そのさじ加減が絶妙だと思いました。