幼い私はネタの宝庫

 『いやいやえん』が福音館書店から出版された時、様々な賞をいただいたのですが、それから25年後、現代口語短歌のホープとして注目された俵万智さんの第一歌集『サラダ記念日』がベストセラーになり、賞をとって世間が賑わっている事を伝えるニュースを見ながら、中川宗弥がポツリ「いやいやえんの時と同じだ」と言ったのが印象に残っています。

 さて、「いやいやえん」は中川李枝子が保育士として「みどり保育園」の子ども達に鍛えられる中で生まれたのですが、私が生まれた後は、息子と言う「ネタ」の宝庫を得て、それを大いに展開した、と利用された私は言いたい。私の愛するぬいぐるみ達は、赤ん坊の時やってきてその時の私より大きいクマは「こぐ(もちろん、『いやいやえん』に出てくる山のこぐちゃんです)」と名付けられましたが、虎の「とらた」は「とらたシリーズ」になりました。最近判明したのは、母の物語世界にいる豹の「バリヒ」、なんでもバリバリ食べてしまう豹だから「バリヒ」って実に変な名前だと思っていたら、どうも命名者は私であるらしい。私の4歳以前の話で、定かではない部分が多いのですが、私が愛していた小さめの虎のぬいぐるみ(多分背中にチャックがあって、お財布のようになっていた)が何かの際に居なくなってしまい、私がかなり悲しんだらしいのです。それを母があちこちで話したら、ほぼ同時にほぼ同じ虎のぬいぐるみがなんと2匹、私の元にやって来ました。その2匹の内1匹が「とらた」で、もう1匹は虎なのになぜか「うさこ」となりました。2匹は今も健在です。そして、どうも最初のいなくなってしまった虎が、虎にも関わらず、豹と認識されて「バリヒ」だったのではないか、と思われるのです。この件、母に確認できなかったのがちょっと悔やまれる今日この頃なんです。

読者ファンの愛情たっぷりに、緻密につくられた「ぐりとぐら」の家のミニチュア・キッチン。写真:杉山秀樹(文藝春秋写真部)    

 さらには、1970年代ですが、私が水泳をやっていたことに刺激されて何年かスイミングスクールに通ったんです。まあ、水泳を習うとなると、だいたい一つの目標がバタフライ、なんですね。で、気がついたら、“ぐりとぐら”にバタフライをする少年が登場してました(『ぐりとぐらのかいすいよく』1977年刊)。息子としては、ネタ元がわかっているので「なんだこりゃあ」となったんですが、本人は「あら、いいでしょ」ってな具合でした。

ADVERTISEMENT

 『本・子ども・絵本』を開いてみてください。その第1章「子どもと絵本」の1、「はじめの一歩」の書き出しは、「むすこが赤ん坊のころ、」。ちょっとだけ「ふふ」となっていただけたら、と思います。

本・子ども・絵本 (文春文庫 な 80-1)

中川 李枝子,山脇 百合子

文藝春秋

2018年12月4日 発売

次のページ 写真ページはこちら