本当は「1.5億円トイレ」

――開幕前は2億円という数字がやり玉にあげられましたが、当初は、さらに大規模なプロジェクトだったそうですね。

米澤 そうなんです。企画に当たり、新たなメタボリズムの在り方として「それぞれ異なる個性を持つ建築物が関係しあって、一つの生態系のようなものをつくりだせないか」と考えていたことがあって。具体的には、光の建築、風の建築、雨の建築、音の建築といったように環境要素をテーマにもった建築が掛け合わさって、単体ではつくれない豊かな環境を形成するといったイメージです。

 そんな感じで、これまでにないトイレ建築を作ろうと思って積算を行ったところ、全く予算に合わなくて……。

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――ちなみにどのくらいだったんですか?

米澤 予算に対してだいたい2倍から3倍くらいの金額だったかなと思います。万博への挑戦心や思いが強すぎた結果ですかね。

――ということは、4億~6億円ですか?

米澤 おそらく、そのくらいだったかなと(苦笑)。予算に対して10~20%オーバーするくらいなら少々の調整で予算内におさめられるのですが、それ以上となると根本的に建築案を考え直さなければならず、ダイナミックな造形をデザインするというよりも、移設転用に焦点を置きシンプルだけれども組み合わせ方によって豊かさが生まれるような仕組みのほうに考えをシフトしました。

2億円トイレの原型となったアイデア。総費用を計算すると4億~6億円までふくらんだことから、見直しを余儀なくされた(米澤隆建築設計事務所提供)

――そして現在の2億円トイレに落ち着いたと。

米澤 「もう少し安く作れなかったの?」とか、ショッピングモールとか、サービスエリアにあるような簡素なトイレでも良かったのでは、という批判もいただきますけど、実は予算の方が先に決まっていて、それを条件として設計業務を行うかたちであったことは強調させてください。あと「2億円トイレ」と言われていますが、それは当初予算がそうであっただけで、さまざまな経緯があり減額案を検討し、実際には撤去費込みで約1.5億円(税別1億5372万円)で落札されています。

最終的に落札された際は、約1.5億円まで工費が削減された(米澤隆建築設計事務所提供)

――予算と比較して大幅に安い提案をするつもりはありませんでしたか?

米澤 提示された予算というのも設計条件のひとつですから、必ずしも安くすればよいというものでもないと思うのです。例えば、ある住宅の設計を頼まれたとしましょう。「予算5000万円の家を設計してほしい」と依頼を受けたのに、もし2000万円の設計案を持っていったとしたら、多分その建築家は怒られると思うんですよ。

 今回のトイレも、それと同じ状況で……。2億円の予算提示を受けているのに、それより大幅に安い建築案を提出するような建築家は、あまりいらっしゃらないのではないでしょうか。

次の記事に続く 「便器1個400万」「殺人鬼トイレ」というデマや誹謗中傷も…大阪・関西万博“2億円トイレ”建築家(43)が直面した大炎上の経緯

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