日本を代表するラブドールメーカーのオリエント工業。2024年に突如として事業終了が発表されたものの、新社長の岡本拓也氏が事業を継承したことで廃業の危機は回避された。

 国内のみならず世界の業界を牽引してきた同社が、競合他社と一線を画すのは何によるのか──。人と無機物の“愛”をテーマにした書籍『無機的な恋人たち』(講談社)から一部を抜粋して紹介する。(全3回の2回目/続きを読む

オリエント工業のラブドール 撮影=濱野ちひろ

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オリエント工業には“人形道”がある?

 オリエント工業の社員数はわずか18名。ラブドールづくりは、少数精鋭の職人たちによる手作業を中心に行われている。価格は最低でも60万円からだ。瞳、髪、胸、陰毛の有無などユーザーの好みにより細かくカスタマイズが可能である。シリコンを用いた肌の質感の追求、身体の各部位のカスタマイズ性という現在のラブドール業界における世界的基準の基礎をつくり上げたのはオリエント工業だと言える。

 オリエント工業の秀でた技術が守られるのか、それとも途絶えてしまうのかファンからの関心が寄せられたが、2024年末、新社長岡本祐也氏が事業継承を発表した。

 岡本さんは事業を継承した理由をこう語る。

「オリエント工業には、他国のラブドールメーカーには見られない、考え方や理念がある。それはもう、武士道や茶道のような“人形道”ともいえるもの。1977年から続いてきたこの歴史と大切な技術を途絶えさせてはならない。また、オリエント工業の製品をこれからは世界に広げていきたいと思ったんです」

海外製のような“売りっぱなし”にしない

 オリエント工業の“人形道”とはどのようなものなのか。

「お客様と人形のことを第一に考えています。古くなるとドールは関節が錆びてしまったり、逆に緩くなったりします。そういったことがないような工夫をしていますし、万一壊れてしまっても、手術といいますか、修理をできるようなつくりにしておく。海外製で修理をするところは聞いたことがない。売りっぱなしなんです」

撮影=濱野ちひろ

 ジーレックス社も修理は行っていない。耐久性も、もし毎日激しく使用したならたった1年間くらいだという。いっぽう、オリエント工業の製品の耐久性は高く、修理をしながら同じラブドールを20年以上かわいがっているユーザーもいると聞く。