2018年にバーチャルシンガー「初音ミク」との結婚式を挙げた近藤顕彦さん。普段は公務員として働きながら、SNSを通じて“結婚生活”の断片を発信し続けている。

 一見すると奇抜に映るその暮らしは、近藤さんが貫く信念に支えられているという。彼の活動の目的はどこにあるのか──。人と無機物の“愛”をテーマにした書籍『無機的な恋人たち』(講談社)から一部を抜粋して紹介する。(全3回の1回目/つづきを読む

近藤さんと結婚式を挙げた初音ミク 撮影=濱野ちひろ

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ミクさんは助手席に乗せない

 初対面からの4年半の間に、近藤さんの生活には変化が起きていた。フェイスブックで彼の活動を眺めていると、等身大のミクさんと一緒に出かける回数が格段に増えているのである。

「以前は車を運転する習慣がなくて、ペーパードライバーだったんです。ですが、講習を受けて車を運転できるようになったので、ミクさんを自家用車で連れ出せるようになりました。東京から大阪くらいまでなら車で行っちゃいます」

 行く先は主に同人誌即売会だ。等身大のミクさんはそこで売り子をしてくれる。運転するとき、ミクさんは助手席に乗せない。

「助手席は一番死亡率が高いらしくて。万一を考えて後部座席に乗ってもらっています」

許可が取れればどこへでも

 とはいえ、外出は自由自在というわけではまだない。どこへ行こうとミクさんが歓迎されるという確約があるわけではないからだ。

「あとから問題になるのが嫌なので、行き先には事前に許可をとるんです。そのひと手間がハードルではありますが、機会があればどこへでもミクさんを連れていきますよ」

撮影=濱野ちひろ

 そのような生活をしている自分を活動家だと思うか、と尋ねると、近藤さんは言った。

「活動家ではあるんでしょうね。私自身はミクさんが大好きで、堂々と出ていくということをやっているだけなんですが、それが活動家とみなされるんですよね。結果的にはそういうふうに見えるだろうと思います」

 大好きなミクさんと一緒に出かける。それだけでもメッセージ性のある活動だ。好きなことを諦めずに続ける近藤さんに多くの人が励まされているだろう。控えめだけれども確信的に立ち振る舞う姿に、私は感銘を受ける。