安倍晋三元首相銃撃事件の公判が、まもなく始まろうとしている。被告・山上徹也は何を語るのか。また、裁判における重要な争点としては何が考えられるか。鈴木エイト氏の寄稿「山上徹也は死刑になるのか」から冒頭を一部紹介します。

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我々の目に焼き付く山上徹也

 あの男がついに公の場に姿を現す。その名は山上徹也(45)。10月28日午後2時、奈良地方裁判所大法廷に出廷する。3年前、参議院選挙で応援演説中の安倍晋三元首相を銃撃し殺害した事件の刑事裁判が、ようやく始まろうとしている。

取り押さえられる山上徹也 Ⓒ朝日新聞社

 我々の目に焼き付いている山上徹也は、大和西大寺駅北口バスロータリーで屈強なSPたちに組み伏せられた姿だ。

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 参院選終盤の2022年7月8日午前11時31分、安倍元首相は、集まった聴衆に向けて自民党候補の応援演説を行っていた。周辺を警戒するSPの視線が外れたわずか数秒の空白の時間に、背後からひとりの男が近付く。手にした手製のパイプ銃から放たれた弾丸は安倍氏に命中し、致命傷となった(享年67)。

銃撃された安倍元総理 Ⓒ時事通信社

 逮捕直後の弁解録取や、その後の取り調べで山上は、「統一教会に恨みがありました」「統一教会と深い関わりのある安倍元首相を撃ちました」と供述。山上の母親は世界基督教統一神霊協会(2015年、世界平和統一家庭連合に改称。本稿では「統一教会」)の信者で、夫の死亡保険金や自宅の売却代金など1億円以上を献金し、そのために家庭は崩壊していた。山上は当初、教団トップの韓鶴子(ハンハクチャ)総裁を狙ったが、2019年10月の来日時は接近できず、以後はコロナ禍で韓総裁の来日が難しくなったことなどから断念し、安倍氏を標的に定めた。

 事件後、安倍氏および自民党と統一教会との密接な関係が次々に報じられ、自民党は統一教会との関係断絶を宣言するに至った。

「宗教2世」の問題や「宗教虐待」についての周知も急速に進み、同年12月には被害者救済法である不当寄付勧誘防止法が国会で成立。今年3月には東京地裁が統一教会の解散命令を下している(教団は抗告)。事件が社会に与えた影響は甚大だ。