「羽生さんとの対局を思い出した」
「羽生さんとの対局は今でもすべて心に残っているのですが、あの対局(奨励会時代の例会“即席トーナメント”決勝戦)だけなぜかぽっかり忘れていました。この本で思い出せてうれしく思いました」と受けた所司七段。本作に登場する渡辺明九段の師匠である所司七段は、こう推したという。
「文句なしに優です。こういう作品は今まで将棋界でなかったように思います。かなり調べないと書けない内容ばかりなのに、将棋界に身をおいていない方が書き上げたことにとても驚きました。
登場する棋士たちの凄さを描くことで、羽生さんの凄さをうまく演出するという、見たことがない書き方でした」
将棋ペンクラブ大賞は、将棋ペンクラブの会員が、作品を推薦し、一次選考、二次選考を経て、最終選考会で決定される。『いまだ成らず』については、次のような推薦コメントが寄せられたという。
「50歳を過ぎてなおも将棋という宇宙を探索し続ける羽生善治の姿が『いまだ成らず』という書名に凝縮されている」
「将棋界にとって『聖の青春』以来のドキュメントの名著。やはり羽生善治は偉大」
読了後、「今年の将棋ペンクラブ大賞はこれで決まりだと確信しました」と熱く語るのは、寺内ゆうき氏だ。寺内氏は吉本興業所属のお笑いコンビ・ランパンプスのネタ担当。観る将の入門書を提案して刊行した『知るほど観たくなる将棋』(扶桑社)が、文芸部門の優秀賞を受賞した。
受賞スピーチで明かされた不安
鈴木氏は、受賞挨拶で書く前の不安を明かした。
「この作品を手掛けるときに、かなり不安がありました。完走できたのは、取材対象の方々が本当に鮮やかに言語化してくださったからです。
自分がその場にいなかったことであれ、自分で理解できない戦局であれ、将棋をされている方は言語化能力に長けている方が多かった。今回、技術部門で受賞された佐藤康光さんは30代の頃の葛藤をお話しくださいました。
棋士は孤独だとずっと思っていました。もちろん対局場ではこれ以上ないぐらい孤独なんですけど、取材してみると実は棋士の方を支えた人たちの存在を知ることができました」
所司七段は、授賞式のスピーチで、こう呼びかけたのだった。
「鈴木さんの本は、何かドラマ仕立てのような感じも受けまして、本当にドラマで放映していただきたいな、と思います」





