10月3日、第37回将棋ペンクラブ大賞の授賞式が開かれた。大賞(文芸部門)を受賞したのは、『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』で史上初のノンフィクション3賞同時受賞を成し遂げた鈴木忠平氏が、初めて将棋の世界を描いた『いまだ成らず 羽生善治の譜』(文藝春秋)。
将棋関係者は、本作をどう読んだのか。授賞式の模様をレポートする。
各選考委員から絶賛の声
「将棋ペンクラブ大賞」は、年間を通して発表された将棋観戦記、随筆、将棋に関する著作物、記事などの中から優れた作品に贈られる賞だ。
観戦記部門の大賞に、後藤元気氏の「第49期棋王戦五番勝負第1局」 藤井聡太-伊藤匠(共同通信)、優秀賞に田名後健吾氏の「棋士編入試験第1局」 高橋佑二郎-西山朋佳(将棋世界)、文芸部門の優秀賞にランパンプス寺内ゆうき氏の『知るほど観たくなる将棋 ドラマティック将棋論』(扶桑社)、技術部門の大賞に、柵木幹太四段の『現代相居飛車の構造』(マイナビ出版)、優秀賞は佐藤康光九段の『実戦で学ぶダイレクト向かい飛車の勝ち方』(マイナビ出版)など、今年もトップ棋士や観戦記者の錚々たるメンバーが名を連ねている。
日刊スポーツで野球担当記者を務め、落合博満や清原和博を描いてきた鈴木氏が、自ら「門外漢」と認める将棋に挑んだ本作について、「宮部みゆきさんの『火車』を思い出しました」と授賞式の挨拶で明かしたのは、将棋ペンクラブ大賞の選考委員で文芸評論家の西上心太氏だ。
「羽生さんを直接描くのではなくて、周囲のさまざまな人の声を聞いて、羽生さんの人間像を立ち上げていく。宮部さんの『火車』では犯人の女性は、最後の最後にしか登場しない。
休職中の刑事が事件を追っていくうちに、背景を塗りつぶしていくと彼女の姿が浮かび上がる構成で、小説とノンフィクションの違いはありますが、手練れの方が描くとこういう見事な作品になるんだなと感じました」
同じく選考委員の一人の森田正光氏(気象予報士、株式会社ウェザーマップ創業者)も「選考会では全員が優をつけた満点でした」と語る。7月の選考会ではこう評した。
「たんに羽生九段のノンフィクションというより、将棋界全体が羽生九段によって変化し、その歴史を記録した貴重な証言集でもあると思いました。読後感もとても良かったです。
59ページに『所司和晴』の名前を見つけたときには、『所司先生すごい!』とうれしかったです」
というのは、所司和晴七段も選考委員の一人なのだ。






