新宿と名古屋のタトゥースタジオで彫り師として働くてんてんさん(32)。全身に龍や般若、アニメのキャラクターなどのタトゥーを入れ、インスタグラムやTikTokで人気を集めている。彼女がタトゥーと出会い、そして彫り師になるまでの道のりには、知られざる物語があった。

てんてんさん

14歳、割り箸と針で始めた自作タトゥー

 てんてんさんがタトゥーに興味を持ったのは14歳の頃だった。当時不登校で、タトゥーに憧れを持つ友人たちと過ごしていた。しかし、県の条例で18歳未満はタトゥーを入れられない。待ちきれなかった彼女たちは自分たちで彫ることにした。

「友だちに蝶々の絵を腕に描いてもらいました。その後、割り箸の先端に針をくくりつけて、その針を墨汁に浸し、絵をなぞるように腕にぷつぷつと針を刺していきました」とてんてんさんは振り返る。

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 結果は惨憺たるものだった。「とても痛いんですよ。絵を描くことにも慣れていないので、蝶々が歪んで汚くなってしまって」。この失敗をきっかけに、18歳になったら本格的なタトゥーを入れようと決意する。

 成人後、広島で初めての本格的なタトゥー、龍を左腕に入れた。「他の人と被らないタトゥーを入れたかったんです」と語るてんてんさん。しかし、彼女の人生は曲折を経ることになる。

 20歳で名古屋へ移住し、キャバクラで働いた後、大阪へ。そこで整形にハマり、1000万円以上を費やす一方で、自殺願望に悩まされていた。「30歳までに死のうと考えていました」と告白する。

 彼女が再びタトゥーに向き合ったのは24歳の時だ。「整形しても気持ちは変わらなくて。それなら自分の身体に生き方を刻みたいと思って、再びタトゥーを入れるようになった」と語る。

 そこから彼女の身体にタトゥーが増えていく。「タトゥーって、デザインを自分で決めますし、痛みも強いので、彫ったタトゥーが自分自身の表現に思えて」。不思議なことに、タトゥーを入れることで生きる気力が湧いてきたという。

 27歳で彫り師としての道を歩み始めたてんてんさん。「死にたいと思うのをやめて、『生きたい』を与えられる彫り師になろうと決めました」。現在は和彫を基本に、感情をテーマにした作品作りにも取り組んでいる。

 

「抱えきれない感情を持っている人にタトゥーを彫って、その人が少しでも長く生きてくれたらなと思っています」と自身の経験から、タトゥーの持つ力を信じている。

 タトゥーを入れたことで様々な偏見や不便を経験しながらも、てんてんさんは後悔していないという。「わたしはタトゥーを入れたことで生き延びられたので、後悔はありません。むしろよかったと思っています」。

 彼女の夢は、オリジナルのインクブランドを作ること。「タトゥーにはかわいい色のインクが少ないんです。新しいことを生み出して、生きるきっかけを与える彫り師になっていきたい」と語った。

写真=山元茂樹/文藝春秋

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