家賃滞納を理由に踏み込んだワンルームマンションのベランダで、白骨化した女性遺体が見つかった――。異臭を放ちながらも、7年間誰にも気づかれずに放置されていたその部屋には、「彼女を殺した。死にきれなかった」と記された1枚のメモが残されていた。

 犯人は、遺体の主とかつて交際していた28歳男性。驚くべきことに、彼はその死体と共に暮らしながら、別の女性と結婚生活を送っていたという。2017(平成29)年に関西地方で起きた、この異様な事件はどんな結末を迎えたのか? なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/最初から読む

写真はイメージ ©getty

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根性焼きをされたことも…犯人の幼少期

 藤本は父親に虐待されて育ち、小4からは特にひどくなり、素手で殴る蹴るはもちろん、孫の手で殴られたり、木製イスで殴られたり、根性焼きをされたり、関節を外されたり、骨折させられたこともあった。

 父親は子どもだけでなく、母親に対しても暴力を振るった。面前DVは子どもの脳の発達に悪影響を与え、学習能力を低下させると言われているが、藤本も例に漏れず学業不振で、高校には進学したものの、2年で中退してしまった。

 そんなときに出会ったのが江利佳さんだった。藤本は17歳のとき、素行不良から中等少年院に行くことになったが、それでも見捨てなかった。

「あなたが邪魔だなんてとんでもない。そばにいてくれるだけで嬉しいよ。何もしてくれんでも、あなたがここにいて、しゃべってくれるだけで嬉しいよ」

 江利佳さんは母親以外で初めて自分を認めてくれた存在だった。やがて「江利佳の笑顔を見るためなら、自分はどうなってもいい」という忘我の境に入るような愛情感覚を持つようになった。

 江利佳さんも親に虐待された経験があり、お互いの存在が欠かせない共依存のような関係になっていった。