事実、藤本の愛情のかけ方は極端なものがあり、江利佳さんに好きな男ができると、それに嫉妬するどころか、悩みを聞いてやったり、デートプランを考えてやったりした。その男との性行為の一部始終を聞いて、「もっとこうした方がいい」などとアドバイスしたこともあった。

 それが自分にできる最大の愛情表現であり、どんな壁でも乗り越えられるという“試練”を自分に課しているようなところがあった。

彼女を殺した理由は…

 藤本は江利佳さんの中に母親を見ていた。母親を父親の暴力から救えなかったという悔いが、極端な守護役割として再現された。母親と似た人をわざわざ選び、その人が抱える問題を解決しようとする。もちろん、藤本はそんな自分の心のメカニズムには気付いていない。

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 江利佳さんから「今日はしんどいから、会社を休んで」と言われれば、それを優先した。江利佳さんが交際相手とトラブルになり、別れ話に発展したときは、相手をボコボコに殴った。

 そんな江利佳さんが遺書を書き、「もう生きていたくない。死にたい」と言い出したため、その願いを叶えるために殺したというのが、藤本の言い分だった。

「オレも江利佳も普通の社会から弾き飛ばされた人間やった。分かってもらえなくてもしょうがないと思うけど、江利佳の願いを叶えるのがオレの役目。それがオレの位置付けだし、オレが生まれてきた意味だ」

 藤本は「後悔はしていないのか?」という問いに対し、「まだ自分の中では答えは出ていない。江利佳がしんどがっていて、これ以上は受け止められへんのやなというのは分かった。もし、自分が間違っていたのなら、江利佳に申し訳ないと思う」などと述べた。

 もちろん、そうなったからには藤本も生きているつもりはない。最愛の女性がいなくなったこの世に未練もない。でも、死にきれなかった。だから、江利佳さんの遺体を手放すことなど「考えもしなかった」と言うのだ。