日本のスーパーゼネコンの一角を占める名門企業・大成建設。同社の山内隆司前会長(79)は昨年、名誉顧問の職を突然解かれ、その解雇が不当として同社及び相川善郎社長を相手取って民事訴訟を起こした。

 

なぜ“大成建設の天皇”と呼ばれた山内氏は解任されたのか。ノンフィクション作家・森功氏が、山内氏へのインタビューを通し、背景へと迫ります。

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なぜ訴訟に踏み切ったのか

 ゼネコンは明治維新以降、日本政府と深く結びつき、文字通り国づくりを支えてきた。なかでも大成建設をはじめ、鹿島建設、清水建設、大林組、竹中工務店の5社はスーパーゼネコンと呼ばれ、決して大袈裟ではなく、国策を遂行する任を担ってきた。

 そこで起きた訴訟自体は、大企業における前代未聞の内紛劇というほかない。反面、当の山内自身はその意図についてこう説く。

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解雇は不当だと訴訟を起こした山内前会長 Ⓒ時事通信社

「今度のことは、私の個人的な諍いに見えるかもしれません。しかしそうではありません。私は裁判で日本の企業経営者のあり方を問うているつもりです。今回の件は組織のガバナンスが問題の根底にある。だから敢えて訴訟に踏み切ったのです」

 ゼネコントップ同士の訴訟は、単なる個人的なそれに留まらない。日本の企業文化や組織のガバナンスが大きく揺らいでいる昨今、裁判からは日本の企業社会の病巣が透ける。

 大手ゼネコンがいかにして実績を積み上げてきたか。国立競技場建設やリニア新幹線の新設、海外事業展開にいたるまで、国の政策とともに歩んできた山内の実体験は、まさに企業社会の真実を物語っていた。

安倍総理(当時)と新国立競技場の模型を視察 Ⓒ時事通信社

 稀に見る裁判は、そんな日本企業の正味の姿を浮かび上がらせている。

 なぜ業界の大立者が訴訟に踏み切らなければならなかったのか。本連載はそこから始める。