「自分の立場が脅かされている」という不安
ケズナジャット氏は自身の体験も率直に明かした。
「マイジャパン症候群のようなことはあったし、今もありますね、現在進行形です」
温泉地でアメリカからの観光客を見かけた際の心境を振り返る。
「努力して日本語を勉強して、日本文化を自分なりに理解してきました。日本の社会に少しは受け入れてもらっているのではないかと思っていたころに、ルールをあまり気にしていない観光客が入り込むと、自分も同じ目線に見られてしまうんじゃないかと感じたんです。
結局、今までの努力には意味がなかったということになってしまいそうに感じて、不安だったんですね」
マイジャパン症候群の本質は他者への軽蔑ではなく、自分の立場が脅かされることへの不安にある、という。ケズナジャット氏は、この不安が世界各地で見られる排外主義の根底にある感情と共通すると指摘した。
「自分の立場が脅されているという気持ちが、各地にあるのだと思います」
インバウンド増加への「複雑な気持ち」
2007年に来日したケズナジャット氏は、最近のインバウンド急増について「複雑な気持ち」と表現した。問題は「言語の壁の問題とか文化の違いとか出身国の問題ではない」と強調し、観光客と生活者の姿勢の違いを指摘する。
「水族館にいる人みたいな眼差しで、壁がある。いろいろ見ているけど、溶け込もうとはせず、全てがただの風景になってしまっている」
一方で、「自分も昔は観光客だったし、全ての交流はそういう浅いレベルの問題から始まる。それを否定するのはどうか」という葛藤も抱えている。
自分の居場所を失いたくない――誰しもが感じる恐れや不安が他者への優越感や差別意識へと転化してしまう「マイジャパン症候群」。在留外国人が恐れる「排除」を先回りして、観光客へと向けるその厄介さを、ケズナジャット氏の証言は浮き彫りにする。
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