「あら、さんまちゃんだわ。ねぇ、一緒に写真撮ってよ~」
普段のさんまであれば、サッと応じるところだ。しかし、店の入り口はディナーの時間で非常に混雑していた。ここで「撮影会」が始まれば、店に多大な迷惑をかけてしまう可能性がある。さんまが少しためらっていると、婦人は間髪入れずにこう言った。
「さんまちゃん、あの人に言っちゃおうかな~」
「さんまちゃん、私、Xさんと親しいのよ。撮ってくれないんだったら、あの人に言っちゃおうかな~」
Xさんは芸能界なら知らぬ者のいない芸能界のドンの一人の名前だった。我々さんま一行は、さんまがそんな“脅し”で写真を撮るかどうかを判断しないことはよくわかっている。もちろん、そのドンがこの件を耳にすれば、その方からさんまのもとに丁重な詫びが入ることだろう。このような非礼に芸能界は厳しい。要は節度をわきまえず、権威との繋がりをアピールすればことがうまく運ぶと勘違いしている人間の威圧的な行為でしかない。
「こんな場所でその名前を出すなんて非常識な!」──私をはじめ、さんまに同行した面々は口には出さないものの怒っていた。しかしさんまは、その気まずさを察してか、まったく感情を見せることなく、「はい、いいですよ、撮りましょう」と写真に収まった。
ここでこじらせても、気のおけない仲間たちや他の客に迷惑をかけるだけ──そう判断したのだろう。この大人の応対に我々もホッとしたが、一方で普段の「いつでもベストな人との接し方」を知るだけに、さんまの心中は察することができた。
