塩田 あの場では軽く言っていましたが、色々と考えていると思いますよ。僕が週刊誌記者に聞くと、「週刊誌に原罪があるのは認めざるを得ないし、怖いけど吞み込んでやるしかない」と言っています。編集長はむしろ、現場のストッパーになっている面もあるんじゃないかな。
有働 ストッパーですか。
暴露系インフルエンサーの“手法”
塩田 昔の週刊誌記者に聞いた、「必ず峰打ちにする」という言葉が印象に残っています。今の暴露系インフルエンサーは得た情報を容赦なく出して個人を追い込むけれど、週刊誌は手持ちの情報をすべて出すことはまずない。現場の記者は少しでも多く情報を出したがるけれど、上がストッパーとして押しとどめる。その違いは大きいかなと思います。
有働 うーん、プロのやり方ということか。まだ釈然としないなぁ。
塩田 ただ僕も、「プライバシーを暴かれる準公人って何やねん」とはずっと考えています。三権を司って権力を持つ公人はウォッチされて然るべきですよ。でも、芸能人や経営者といった準公人の私生活にどんな社会的影響力があって、我々の生活に関わるのかといったら、ないですよね。準公人って何なのかと、弁護士に聞いてもよくわからない。
有働 えっ、わからない?
塩田 明確な定義がないんです。社会的影響力、有名人であれば売れているかどうか、ということらしいのですが、しっくりこなくて。たとえば少し前に不倫疑惑が報じられた女優さんのSNSを見ると、コメント欄が地獄のようになっている。炎上の対象となる個人を、書き込む人は、実在の人間として想像できているのか。そこを問うために、ひとりの人間を丁寧に追う小説を書くことで、「あなたにとってはデジタルで質感のない虚像かもしれないけど、関係者にとっては、一緒に生きてきた人間なんだよ」と伝えたい。
有働 作中でお笑い芸人が「いつから『人を傷つけない笑い』とか言い出したんやろ。自嘲まで封じられるときついんやけど。何でこんな戦時中みたいに息苦しいんやろ」と書いた場面も印象に残っています。塩田さん自身、学生時代には漫才コンビを組んでいたそうですね。(後半に続く)
※本記事の全文(約8700字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(塩田武士×有働由美子「プライバシーを暴かれる準公人って何やねん」)。記事ではこの他にも、塩田さんのデビュー前夜、幼き日の松本清張の読み聞かせ、小説の”視聴率”などについても語られています。
出典元
【文藝春秋 目次】永久保存版 戦後80周年記念大特集 戦後80年の偉大なる変人才人/総力取材 長嶋茂雄33人の証言 原辰徳、森祇晶、青山祐子ほか
2025年8月号
2025年7月9日 発売
1700円(税込)

