「28回!」

 これ以降、2013年の暮に岡山で半同棲を始めるまでの間、何度か東京に呼んでもらうことになったのだが、初めて会ったのが6月27日で、翌28日のこと、

「28回!」

 鶯谷の行きつけの居酒屋へ連れて行ってもらった私がトイレから戻ると、彼は言い放った。手帳に「28回」とメモしてあるので間違いない。

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「え( 何のこと)?」

「トイレ! 今ので28回目!」

「……(チーーン!)」

 たださえIBS(編注:過敏性腸症候群)のところへもってきて、ましてや当時テレビによく出ていた作家が一緒だとあって、私が恥をかかせるようなことがあってはならないと周囲の目が気になって仕方がなく、この2日間はとにかく頻繁にトイレへ行きまくり、その挙句が「28回!」だったのである。前日、初めての待ち合わせ場所に文京区の礫川公園を指定させてもらったのも、祖父母のお墓が近くにあるから多少土地勘があるなどと言ったのはあながち噓ではないものの、何のことはない、オープンエアだったからなのである。

 よくもそんなので西村賢太に会いに行ったな、と言われても、誘いを断るには大好きすぎたし、一度きりでもいい、という自棄もあった。初手の電話であれだけ盛り上がったのだから、もしかしたらまたアッと云う間に時が過ぎ、症状が出ずに過ごせるかもしれないとの淡い期待に、縋りたくもあった。そして、病気については当然、先の電話で次の通り説明済みでもあった。

「デフォルトって何だよ」

「基本的にずっと、って意味です」

「そりゃぁ、しぶり腹だな」

「……シブリ腹?」

「そういうやつだよ」