塩田 母のお陰で人間が一番怖いということに気づきましたね。母は語り終えると「タケちゃん、悪いことしたらあかんで」って、童話と同じ結論を言うんです。同じ結論だけど過程が違いすぎる。でもそうやって道徳を教えられた気がしますね。
有働 ご自分が父親になった今、同じように育てていますか?
松本清張=アンパンマンの2歳の娘
塩田 いやいや。ただ、僕は松本清張の似顔絵を描いたマグカップを使っているのですが、長女が2歳頃にそれを指して「まつもとせいちょう」って言ったんです。
有働 2歳児が!
塩田 僕が無意識に話しているのでしょうね。4歳頃には、誕生日プレゼントに「まつもとせいちょうの絵本がほしい」と言われました。
有働 絵本かー(笑)。
塩田 松本清張というキャラとして、アンパンマンと同列に見ていた。この子はとんでもない家に育っているなと反省しました。
有働 松本清張好きのお母様は、読み聞かせしてきた息子が新人賞を受賞した時には、さぞかし喜んだのではないですか?
塩田 めちゃくちゃ喜びました。母は引っ込み思案で、僕の授賞式の前には、「有名な作家さんや出版社の偉い人がいっぱいいるのは怖いから、会場の端っこにいるね」と言っていたんです。でも当日、僕がスピーチのために舞台に立ったら、会場のど真ん中に母がいた(笑)。
有働 嬉しかったんだろうなぁ。
塩田 新人賞の最終選考に残った段階で「願掛けするわ」と言ってくれていたので、受賞後にどんな願掛けをしてくれたのかを聞いたら、白身魚を断っていたと。「えっ、白身限定なの?」「ごめん、赤身は食べたかってん」だそうです。
有働 かわいらしい〜。お姉様の塩田えみさんはラジオパーソナリティで、塩田さんと分野は違えども、表現されるお仕事ですね。
塩田 姉とは今も、ひとたび電話すると4時間くらいは話しますね。
有働 大人になってもそんなに仲がいいなんて、何を話すのですか?
塩田 お互い社会をどう見ているかといったことを次から次に。姉は8歳上で、幼少期に僕が言葉遊びで「庭には二羽鳥がいる」と言ったら、「『庭には二羽ニワトリがいる』のほうがいいわ」と返された。同様のことが多々あって、この人には一生勝てない、と。進学も就職も姉の影響で決めました。
有働 都度相談するのですか。
