首脳会談のようなハイレベルな外交の場には、厳密なドレスコードが存在します。
服装の格は平等であることが求められ、男性はダークスーツ、女性はスーツやワンピースなど細かく定められている枠組みの中で「どう見せるか」という戦略のことを「アタイア」(attire)といいます。
アタイアは本来は「服装」「装い」を意味する英語ですがそれだけでなく、何を、どのように着るかを通して、政治的立場や感情を映し出す非言語のメディアと言えます。
今回、日米首脳会談が行われたのは、迎賓館「朝日の間」。
ネオ・バロック様式の格式高い客間で、大理石の柱やクリスタルのシャンデリア、壁画が荘厳な印象を与える空間です。
高市総理が、この重厚な空気を念頭に、自身が映えるよう戦略立てて選んだのが、地模様のあるシルバーグレーのシルクジャケットと、ベージュのワンピースでした。
ジャケットの丸みを帯びたラペル(折り返した襟)は強さよりも柔らかさを象徴し、全体をワントーンでまとめてコントラストを抑えたことは「主張よりも調和」、「対立よりも懐柔、柔軟」という姿勢の現れでしょう。
高市氏は黒の丸首シャツを着用することが多く、強さを強調しています。しかしトランプ大統領が相手の今回の首脳会談では、温かく包み込むような色調を選択しています。
米海軍横須賀基地では鉄紺のパンツスーツを着用
ラペルにも意味があります。
近年、女性用ジャケットでは襟のないデザインが好まれるようになってきましたが、迎賓館のような格調高い空間では、ラペルは必須アイテムです。
高市氏は26日のASEAN首脳会議でも、飛行機から姿を現した時にはノーカラージャケットでしたが、会議の時には曲線的なラペル付きのジャケットを選んでいました。
さらに米海軍横須賀基地でジョージ・ワシントンに乗艦する際には、黒に近い鉄紺のパンツスーツを着用しています。
素材にやわらかい物を使っていたのは米軍から指定された「動きやすい服装」というドレスコードを踏まえてのことでしょうが、色は格式高い鉄紺を選び、米兵への経緯を表しています。
胸元のポケットチーフにはアメリカ国旗の赤・青・白を配して連帯のメッセージを添え、足元のローファーも士官が非番の時に履くシューズに由来するもので、軍人からの好感度も高そうです。
全体に高市総理のファッションは、ドレスコードを理解し、その内側で「トランプ大統領や米軍関係者、米兵たちにどういう印象を残すか」の戦略が練られたものだったと言えます。


