父との最後の思い出作り
――お父さんとの思い出に残っていることは何でしょうか。
小島 別れが近いと思うと、できるだけ希望を叶えてあげたかったのですが、報われない気持ちになることも多かったです。
ある時は、「ピンクと水色のジャージがほしいんだ」と言うので、「そんなの本当に着るの?」と怪訝に思いながらも、何とか条件に合う服を探して持っていきました。それなのに結局一度も着ることはなかったです。ぶつぶつ言い訳していましたが、おそらく気に入らなかったのでしょう(笑)。
亡くなる3週間前には、珍しく私の夫に電話をかけてきました。「可奈子には言わないでくれ」と夫に口止めをした上で、「携帯電話で競艇の舟券を買うにはどうしたらいいのか」と聞いてきたそうです。
もう腹が立つやら呆れるやらで、翌日は「今日は父の電話には出ないぞ」と決めました。すると16回も着信があって……。苦しいことに向き合うのが不得意な父だったので、不安のあまり混乱していたのかもしれません。
――やってあげてよかったことはありますか?
小島 外出したがっていたので、車椅子に乗せて、家族で車で海に行ったことがありました。「海の中道」から続く志賀島をドライブして、「サザエが食べたいんだ」というので買ってきて、車の中で食べました。そのあと、お寿司を食べたがっていたのですが、病院から感染症を防ぐために外食は控えるように言われていたんです。何とか説得しようとしたのですが聞き入れてくれず、病院に電話で報告して、お寿司を食べさせることになりました。
その2週間後に父は亡くなりました。色々としんどい思いもしたけれど、あの時出かけて、お寿司を食べさせてあげてよかったなと思います。
