韓国が原子力潜水艦に執着する理由とは

 では、韓国はなぜ原潜に執着するのか。考えられる理由は2つある。ひとつは、主に進歩系勢力にみられる「自主国防」への願望だ。過去、金大中・盧武鉉両政権時代、韓国海軍は「ブルー・ウォーター・ネイビー」を標榜し、海自が持つ大型輸送艦、イージス艦を韓国にも導入しようと躍起になった。2つ目は、李在明大統領が29日の米韓首脳会談で語ったように、「原潜用の核燃料が欲しい」ということかもしれない。米原潜は、約30年とされる稼働期間中、一度も炉心交換をしない代わりに、核爆弾に転用できる高濃縮ウランを使っている。B氏は「高濃縮ウランを扱う機会を得て、技量や経験を積み、将来の核保有に備えたいのではないか」と語る。

釜山に入港した米海軍の攻撃型原子力潜水艦「アレクサンドリア」 ©時事通信社

 いずれにしても、軍事的な合理性を無視した政治主導の頭でっかちな議論とも言える。A氏は「シビリアンコントロールが行き過ぎた結果だ」と語る。韓国では長きにわたった軍事独裁政治への反省から、政治が強力に軍をコントロールしている。「軍人が政治家のご機嫌を伺わざるを得ない」(A氏)とされるからだ。

 米国には国外への核拡散を厳格に制限した原子力法がある。だから、過去の歴代米政権は韓国の原潜保有に慎重だった。米韓原子力協定や核不拡散条約(NPT)との調整も必要だ。トランプ氏は韓国の造船能力を米国のものにする対価として、軽く考えたのかもしれないが、おおよそ実現できるとは思えない。

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 結局、北朝鮮や日本、台湾などにある原潜待望論を刺激し、東アジアの戦略環境をかき乱しただけの結果に終わる可能性が高い。

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