トランプ米大統領は10月30日、韓国の原子力潜水艦建造を認める考えを示した。この決定に韓国は沸き立った。進歩系与党「共に民主党」の鄭清来代表がSNSで「我々の宿願」と喜べば、保守系の朝鮮日報も31日付朝刊のヘッドラインで「原子力潜水艦建造 30年の宿願かなう」と伝えた。ただ、日本の防衛関係者からは一斉に疑問の声が上がった。果たして韓国の原潜保有の夢は実現するのか。
韓国の国会で繰り返されてきた「原潜必要論」
「北朝鮮が核兵器を搭載した戦略原潜を建造しようとしている。追尾するためには、我々も原潜を持たなくてはならない」。これがこの10年ほど、韓国の国会で繰り返されてきた「原潜必要論」だ。
韓国海軍が保有する通常動力型潜水艦は、水中速度20ノット(時速約37キロ)程度で、電池に充電するため、たびたび海面の上にシュノーケル(吸気筒)を出してディーゼル発電機を使う必要がある。敵艦船を長時間追尾することに限界があるうえ、敵が発射した魚雷から逃げ切るのにも限界を伴う。これに対し、原潜は水中速度30ノット(時速約55キロ)以上の高速で制限もなく長時間連続で航走できる。補給や整備を考えあわせても、潜航したまま数カ月単位での連続作戦行動も可能だ。
一見、説得力がありそうな主張だが、防衛省幹部のA氏とB氏は「戦略も戦術も見えない無責任な主張」と切り捨てる。
まず「戦略」だが、原潜を保有する目的には大きく分けていくつかある。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載して「本国が核攻撃に遭っても、残存した原潜から報復核攻撃ができる状態にしておくことで、敵の核攻撃を抑止する」という第2撃能力で核抑止を機能させる(戦略原潜)、敵の水上艦などを攻撃したり戦略原潜を追尾したりする(攻撃原潜)、巡航ミサイルで地上を攻撃する(巡航ミサイル原潜)などだ。韓国の場合、核兵器を搭載した戦略原潜を目指しているわけではない。
では、韓国軍は原潜が必要とされるほどの広大な海域での行動や、長期間の連続潜航が要求される作戦環境に置かれてきたのだろうか。「そんなことはない」とA氏もB氏も口をそろえる。一般的に、東アジアの「潜水艦行動海域図」を考えた場合、海自潜水艦が日本海から東シナ海と南シナ海の北半分くらい、豪州軍潜水艦が豪州から南シナ海の南半分くらいを受け持っていると言われる。その全体を米軍原潜が機動的にカバーすることで、中国軍の動きににらみを利かせている。

