こうした同盟国間での「ウォーター・スペース・マネージメント」は極秘事項になっているが、少なくとも韓国軍潜水艦が中国を抑止する活動に加わっているという事実はなさそうだ。A氏は「韓国軍が独自に中国軍を監視しているということもない。日本を監視しようとすれば、米軍に怒られる。結局、朝鮮半島沿岸部で北朝鮮を監視しているに過ぎないのが現実だろう」と語る。

潜水艦の運用戦術に限界…照合データの不足も

 米軍はこうした事情もあり、韓国軍の潜水艦保有に協力してこなかった。韓国はドイツと技術協力し、潜水艦を取得するに至った。当初は、シームレスな船体づくりやスクリューの構造に問題があり、雑音がひどく出るなどの苦労も味わったとされる。

 だから、潜水艦を運用する「戦術」にも限界がある。A氏は「韓国軍潜水艦が日常的に(九州から台湾、フィリピンを経て南シナ海を囲むように延びる)第1列島線を越えて活動しているという話は聞いたことがない。おそらく、潜水艦の運用に必要な潮流や塩分濃度、海溝などのデータを保有していないだろう」と語る。原潜というスーパーカーを手に入れても、運転するために必要な地図を持っていないという意味だ。潮流や塩分濃度のデータがなければ、ソナー(水中音波探知機)がどのように反響するのかわからず、効果的な運用ができない。

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 B氏は「潜水艦で潜水艦を追尾するという発想自体、潜水艦のことを知らない人の考え方」と指摘する。「潜水艦とは本来、音を出さないのが前提。海中に設置したハイドロフォンや対潜哨戒機、水上艦などが集める情報を総合的に分析するのが正しいやり方」と語る。

 韓国軍もP8哨戒機は保有しているが、海自が保有する、対潜哨戒機P3Cが得た情報が蓄積された対潜水艦戦作戦センター(ASWOC)の存在は確認されていない。海自はハワイの米インド太平洋軍司令部とも連動し、潜水艦の種類や行動などを詳細に分析できる。韓国軍の場合、せっかく音を拾い集めても、それが何なのかを照合できるデータが足りないわけだ。

 B氏は「原潜は通常動力型潜水艦よりもコストが7~8倍以上かかるうえ、補給や整備する施設、人材育成に莫大な費用がかかる。半島沿岸部を警戒するなら、通常動力型潜水艦を複数運用すれば十分だろう」と話す。