76歳にして、今なお世界中を魅了するスーパースター。“ボス”の愛称で尊敬されてきたブルース・スプリングスティーンは、60年以上に及ぶキャリアで、1億4000万枚以上のアルバムを売り上げ、20個のグラミー賞を手にしてきた。
トランプの怒りを買う、リベラルな“ボス”
一般人のリアルな心を表現する名曲を通じてだけでなく、このロックの神様は、政治的意見を堂々と述べることでも、人々に影響を与えてきている。同性婚の合法化を含むLGBTQの権利のためにも声を上げてきたリベラルな彼は、2016年にオバマ大統領から大統領自由勲章を、2023年にバイデン大統領から国民芸術勲章を授与された。
今年のツアー中にも、「僕の故郷、僕が愛するアメリカ、僕が(歌に)書いてきたアメリカは、250年間も自由と希望の象徴だった。それが、今は、腐敗した無能な政権下にある。独裁主義に反対する声を上げよう! 自由のために!」と観客に訴え、トランプの怒りを買っている。もちろん、そんな反応は織り込み済み。へこたれる様子など、微塵もない。
だが、そんな恐れを知らぬヒーローにも、自分を見失った時期があった。有名になったことにとまどい、子供時代のトラウマから逃れられずにいた30代前半だ。
ジェレミー・アレン・ホワイト(『一流シェフのファミリーレストラン』)主演、スコット・クーパー(『クレイジー・ハート』『ブラック・スキャンダル』)監督の映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』は、その頃の彼を描くもの。ウォーレン・ゼインズによる原作のノンフィクション本通り、この映画はアルバム「ネブラスカ」が生まれた背景を語る。アルバム同様、静かで、内向的で、アナログな美しさを持つ作品だ。
完成作を心から気に入ったスプリングスティーンは、ニューヨーク映画祭でのプレミアで、「映画を見た妹は、この映画が存在してくれて嬉しいねと言った」と明かし、クーパー、ホワイト、そして彼の長年のマネージャー、ジョン・ランダウを演じたジェレミー・ストロングに、心から感謝の言葉を贈っている。
ロサンゼルスで行われた会見で、彼はさらに心境を明かしてくれた。

