「人の顔が数字に見える」

 吉野 ちょっと脱線するかも知れませんが、AIのことを考えるときに思い浮かぶのが、去年AIに関する研究でノーベル化学賞をとったデミス・ハサビスさんと、ジョン・ジャンパーさんの2人。それから物理学賞をとった「深層学習のゴッドファーザー」の異名をとるジェフリー・ヒントン先生。全員がケンブリッジ大学出身で、イギリスの教育制度を経験してきた科学者も多いんですね。これは単なる偶然ではないと私は思うんです。

“キラリと光る”個性に遭遇した経験を吉野氏が語った ©文藝春秋

 AIの特質と今のイギリスの教育制度がうまくマッチングしているのか、あるいはAI開発に必要な独創性につながるような教育システムを持っているのか。真相はわかりませんが、日本は明治維新の時はイギリスに学びましたので、これはもう一回イギリスの教育制度のいいところって一体何なんだろうかというのを、謙虚に日本人の立場として、学ぶべきと思っております。

 日本でいうとアニメーションに同じことを感じます。私は近年、小学生が参加するプログラミングコンテストに審査員として関わったのですが、ある子がプログラミングで自分のおじいさんやおばあさんの顔にそっくりな映像をパパパッと実に手際よく描くんですね。表彰式のときに「なんでそんなに簡単に出来るの?」と聞くと、「簡単だよ。人の顔が数字に見えるから、それを打ち込めばいいんだ」というのです。ここに皺が寄っている、頬骨が角張っているといった視覚情報が、ゼロかイチかの数字としてパーッと入ってくるらしい。

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 日本のアニメが世界を席巻していることと重ね合わせると、この分野の日本人の技術に、より注目してもいいのではと感じますね。

※本記事の全文(約1万字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(野依良治×吉野彰×梶田隆章「ノーベル賞受賞者たちの緊急会議」)。

文藝春秋

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ノーベル賞受賞者たちの緊急会議
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