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元ヤクルト・今浪隆博が書く「青木宣親、坂口智隆、大引啓次の良さは“表情”にあり」

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/08/05

新加入・青木宣親の注目ポイントは「表情」にある

 もちろん、家にいるときには古巣・ヤクルトの試合に注目している。今年のヤクルトの最大の変化として真っ先に挙げられるのが、青木宣親さんの加入だ。個人的にすごく好きな選手で、走攻守どれをとってもすばらしい選手だ。しかし、これまで青木選手のどこが好きなのかと聞かれると、正直答えに困ることがあった。でも、野球から離れて一ファンとして見たときにその答えがわかったような気がする。

 その答えとは、「表情」だ。打席の中で見せる表情が好きなのだ。昔は、「グラウンドの中では白い歯は見せるな」とか、「相手に表情を悟られるな」とか、グラウンドの中で表情を見せることは悪だと教えられてきた。それで思い出したことがある。私がヤクルトに移籍したときに、ヤクルトの選手の多くはどこか、すかしてプレーをしているような印象を受けた。

「すかしている」とは、プレーを淡々と行うことだ。どんなにいいプレーをしても、淡々としていて表情が変わらないのだ。唯一見せる表情は、「悔しがる」ということだけだった。打席で凡退した選手がベンチに帰ってきて、すごく悔しそうな表情を見せるのだ。それ自体は決して悪いことではないし、アスリートとして当然とも言える行為だとも思う。しかし、私にはその行為が、心からの悔しさではなく、まるでそのように振る舞わないといけないような雰囲気に感じられて仕方がなかった。悔しがる表情を見せないといけないのだ。このことは移籍した当時を振り返ってもとても印象に残っている。

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 青木さんを見ていると、打席の中で表情がよく動く。見ているこちら側まで、まるでその場の緊張感や楽しさ、嬉しさまでが伝わってくるかのようによく動く。実際に、打席に立つことが嬉しくて楽しいのだろう。こうした表情が見ている人を引きつけるし、見ている人を引きつけることができるからこそ、いい成績を収めることができる。人は、応援をされると能力を発揮しやすいということがわかっている。そしてその逆に、応援をされないと能力を発揮しにくいということもわかっている。「ファンの声援が大きい=いい成績が残せる」のだ。

そして、盟友・坂口智隆、大引啓次へ

 坂口智隆を見ていても同じようなことを思う。グッチも表情がよく動く。グッチから感じられることは、闘争心や必死さだ。先ほど書いたように、すかしたように感じられる選手が多いヤクルトにおいて、グッチの存在はとても貴重である。ヤクルトファンの反応を見ていたらよくわかる。オリックスのときも人気選手だったが、グッチの場合は今の方が人気者なのではないだろうか。

 ……そして、もうひとり、しゃーなしで書いておこう。大引啓次だ。奴は、守備でガッツポーズを見せることのできる貴重な存在だ。バットで貢献するときはもちろんなのだが、守備でいいプレーをしたときに見せるガッツポーズ。これをできる選手はなかなか多くない。それだけ守備にこだわりがあるし、安心感がある。 守備でいい「表情」を見せてくれるのだ。個人的にあのガッツポーズは大好物だ。

 プレーに人柄は出る。私はそう思っている。ファンの人たちは、そのプレーや人柄に魅力を感じるのだとも思う。だからこそ、もっといろんな選手に「自分を表現する」という意味でさまざまな表情を見せてほしい。もちろん「表情に出さないことが自分の表情だ」と思う選手は変える必要はない。でも、現在、自分の持てる能力を発揮できていないと感じる選手には、青木宣親、坂口智隆、そして大引啓次といういいお手本が目の前にいるのだから、ぜひ、これからはいろいろな表情を見せてほしいと思う。

 これから夏本番になり、シーズンも終盤に入っていく。「交流戦優勝」というタイトルを獲得し、現在リーグ3位という順位につけている。体力的にも、精神的にもきつい時期だからこそ、終わったときには全員が「いいシーズンだった」と思えるように、チーム一丸となって、残りの試合を戦ってほしいと願っている。

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