多くの人になじみのある「あの塩」が使われていた!

「もしかしたら家庭のキッチンにあるかもしれないですよ」

 いたずらっぽく笑って編集者が教えてくれたのは、『伯方の塩』。なんと、一度聞いたら忘れられない「は、か、た、の、しお!」のテレビコマーシャルでおなじみの伯方の塩が、年3度の東京場所と名古屋場所で用いられているというのです。

 意外な事実を知った筆者が伯方の塩を製造する『伯方塩業』に問い合わせたところ、プロモーション部の井上純平さんが教えてくれました。

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「はい、東京場所と名古屋場所で使われているのは弊社の伯方の塩です。市販品とまったく同じもので、毎場所、日本相撲協会様にお買い上げいただいています」

 やはり、日本中の家庭で重宝されている塩が、土俵上でまかれていたのです。通常、本場所で塩をまくのは十両以上の力士だけで、井上さんによると1日に35キロほど、1場所に520キロほど消費されているそう。

 土俵の傍らに置かれた、竹かごひと山の塩はおよそ5キロ。私たちがスーパーなどで目にする伯方の塩1キロが529円(税込み)なので、竹かごひと山分で2645円ということになります。

清めの塩には、伯方の塩が使われていた(同前)

1987年から使われていた

 井上さんが、伯方の塩が大相撲に採用された経緯について教えてくれました。

「大相撲に伯方の塩が使われるようになったのは、1987年5月場所からです。2代目の社長が、『日本の国技である相撲は“塩”と切っても切り離せない。相撲にとって大切なその塩を伯方の塩にしたい』と考え、日本相撲協会様に売り込んだと聞いています」

 1987年というのは伯方塩業にとって大きな意味があるそうです。というのも大相撲の清めの塩への採用に加えて、あのキャッチーで力強い「は、か、た、の、しお!」のテレビコマーシャルが始まったのが、この年でした。2代目社長が、精力的に伯方の塩を売り込んだことがわかります。

 さて、従来塩化ナトリウム99パーセント以上のいわゆる食塩が使われていた清めの塩は、伯方の塩の登場で劇的に変わったようです。

「さらさらした食塩と違い、粗塩である伯方の塩は“にがり”と水分をほどよく含み、粒も大きいので盛り塩にしやすい。指からこぼれにくいですからね」

 井上さんの話を聞いて、筆者は2024年の春場所を最後に引退した、照強関の豪快な塩まきを思い出しました。

豪快な塩まきで話題を呼んだ、照強 本人Xより

 照強関は竹かごに深く右手を入れてごそっと大量の塩を取り、左手で雪玉をつくるかのように塩を固めてから、ハンマー投げのように上半身を大きく回転させて美しい「塩の華」を咲かせました。これがさらさらの食塩だったら、一度に手に取れる塩の量は減ってしまうでしょう。

 両国国技館が沸き返る清めの塩は、実はみんなが知っている伯方の塩。そう考えると相撲に親近感が湧いてきました。

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