氷上を自由自在に滑走する、フィギュアスケート選手たち。彼・彼女らが使用するスケートシューズは、2007年に登場した「ある靴」を境に、大きく変わった。
それまで有名ではなかったメーカーが生み出したシューズは、その後羽生結弦などトップスケーターが愛用するようになり、今ではスタンダードとなっている。いったいどんなものなのか。スポーツライターの熊崎敬氏による書籍『大谷のバットはいくら? スポーツを支える道具とひとびとの物語』(柏書房)から一部抜粋して、お届けする。(全3回の3回目/最初から読む)
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スポーツの現場には、用具の管理や手入れを専門に行なうスタッフがいます。テニスならストリンガー、カーレースならメカニック、スキーやスノーボードならサービスマンなどと呼ばれますが、美しく氷上に舞うフィギュアスケートなら研磨師。ブレードと呼ばれる、スケート靴の底に取りつけられた金属の刃を研ぐ職人のことです。
「ブレードの厚みは3、4ミリほどですが、その全体が氷に接するわけではありません。ブレードにはU字型の溝があって、氷に接するのは、その端のエッジと呼ばれる部分。滑っているとエッジがすり減っていくので、1カ月に1度くらいのペースで選手の好みに合わせてブレードを研ぐのです」
そう語るのは年間500足を超えるスケート靴を扱う、研磨師の櫻井公貴さん。荒川静香さんや羽生結弦さんといったオリンピック金メダリストをはじめ、数々の名選手がブレードを託す、腕利きの職人です。
学生時代、フィギュアスケーターとして大学選手権でも活躍した櫻井さんによると、彼の現役時代といまとではスケートシューズがまったく違うのだそうです。
