ドジャースに移籍し、2年連続でワールドシリーズ王者チームの一員となった大谷翔平。リーグをまたぎ、3年連続のレギュラーシーズンMVPに選出される快挙も成し遂げた。
惜しくも3年連続のホームラン王こそ逃したが、この3年で大谷は平均50本以上のホームランを放っている。量産の背景には、型破りなほど「硬い」バットの存在があった。スポーツライターの熊崎敬氏による書籍スポーツライターの熊崎敬氏による書籍『大谷のバットはいくら? スポーツを支える道具とひとびとの物語』(柏書房)から一部抜粋して、お届けする。(全3回の1回目/続きを読む)
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日本人がメジャーリーグのホームランキングになる。それもピッチャーをやりながら――。そんなマンガのようなストーリーを実現してしまった大谷翔平の商売道具には、興味深いエピソードがあります。
大谷にとって、エンゼルスでの最後のシーズンとなった2023年シーズン開幕前のこと。スプリングキャンプで豪快に打球を飛ばす彼の映像が、ある日本人を驚かせました。
「え? このバットはもしかして……」
中心に輝くのはCのロゴ。間違いありません、アメリカ『チャンドラー』社のバットです。そして、その人物こそ日本で同社の輸入総代理店を務める宇野誠一郎さんでした。
大谷のその後の活躍は、だれもが知る通り。WBCで世界一の栄冠を手にし、移籍したドジャースで日本人として初めてホームラン王になりました。それ以降、彼が柵越えを放つたびに、宇野さんのもとには「チャンドラーのバットについて教えてください」という取材依頼がひっきりなしに寄せられました。もちろん筆者もそのひとりです。
