大谷に影響を与えた「ある大物スラッガー」とは?
「ヤンキースのアーロン・ジャッジです。彼は2022年、チャンドラーのバットでア・リーグ新記録となる62本ものホームランを放ちました。そこから大谷選手は、チャンドラーに興味を持ったのだと思います」
実際に大谷は、握りやすくするためにジャッジモデルのグリップを少し細くしたものを使っています。その価格はアメリカでの一般販売価格が269ドル、日本円で4万350円と少々値が張ります。
宇野さんによると、チャンドラーの特徴は「硬い」のひと言に尽きるそうです。
「私が見たスプリングキャンプの映像でも、大谷選手は打つたびに『硬!』とか『えぐ!』と叫んでいました。ボールはバットに吸いつくというより、激しく衝突するような形で飛んでいく。『ガチャーン!』という打球音は金属を思わせます」
20年ほど前まで日本人選手の多くは、しなりがあってボールが吸着するような打感があるアオダモのバットを使っていました。しかし大量の伐採によるアオダモの減少に加え、近年球速を増すボールに押されてしまうこともあり、より硬いホワイトアッシュやバーチが台頭。いまでは日米ともに、メイプルが主流になりました。
ここで筆者は疑問を抱きました。メイプルバットが主流のいま、なぜチャンドラーだけが明らかに硬いといわれているのでしょう。
そのひみつは、この会社の成り立ちにありました。チャンドラーが生まれたのは2009年ですが、その前年、メジャーリーグではバットの破損率が過去最高を記録しました。創業者のデイビッド・チャンドラーは、自分ならもっと安全で優れたバットをつくることができるはずだと考え、自ら会社を興します。というのも彼は木工家具の優秀な職人であり、メイプルの特性を熟知していたのです。
