さきにも触れたが、加害者の父親は仏教系大学で長年にわたり教鞭を執っていた人物である。立派な「教育者」として学生らに説いているであろうことと、息子が犯した罪に対する態度のギャップを森田はどうしても受け入れることができない。
(前略)事件後に検事に聞いた話によると、加害者は、親に暴力を振るっていたこともあったと聞いた。当時加害者が勤めていたアルバイト先に、迷惑を掛けた旨の謝罪をするでもなく、親が子供の給料を取りに行ったということも聞いた。一度だけ、加害者の親が家を訪ねてきたが、その時点で、控訴していると聞いていたので、断りを入れた。ましてや、その際も、手ぶらだったし、ドアホンを押しても姿を見せず、鍵を開けた瞬間に扉を引っ張り開けるような感じだった。2月5日の命日近くになると家にいないようである。一体、加害者の親は何を考えているのか疑問でならない。(後略)
森田の自宅を訪ねるとき、私は必ず加害者の家の前を通る。人が住んでいる気配があった。森田に確かめると、いま現在も両親はそこで暮らしているという。
民事事件で4000万円超の損害賠償命令が出たが、それについて、内容証明を送付したことに対して何の音沙汰もないのは、どういうことか。加害者には、できるだけきつい言葉は避けたいと思っているので、あまり言いたくはないが、親に対しては思うところがある。しかるべき対応をこれまでにいくらかでもしてくれていればと思う。前回の制度利用において、心情等伝達結果通知書によれば、加害者は、被害弁償を考えて、親に相談するなどと言っていたようであるが、結局、何の行動も目に見えていないし、本当にそう思うのであれば、当時からもっと誠意ある行動をしてくれたのではないかと思う。(後略)
畳みかけるような森田の憤りの言葉が続く。これに対して、2回目になる「心情等伝達結果通知書」には何と記してあったか。
加害者からの言葉
申し訳ありません。被害者と家族に対してすみませんという気持ちです
親との面会と手紙で、刑務所を出た後、自分で被害弁償をしていく話になっています。出所したら、家に行って手を合わせたいと思っています
手紙が届いたら受け取ります
またしても、これだけの返答だった。