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選手はあの日のあのプレーを消すことはできないのに……

「お粗末か……」声に出して、自分でもなぜか分からないけど笑っていた。お粗末なんて、人に対して考えたこともなかったな。なぜなら私自身が欠陥だらけのお粗末人間だから。ただ一つのプレーで、「お粗末」と断罪できる、言葉を持つものはそういう権利があるのか。だったら私は言葉なんていらない。お粗末、お粗末……何度か呟いて、その空虚な響きに今度は涙が出てきた。ほどなくして「一部のファンを不快にさせる表現がありましたので、削除しました」という呟きとともに、あのツイートは削除された。

 笑って、泣いて、今度は自分でも驚くほどの怒りが込み上げてきた。だって、倉本はどんなに頑張ったってあの日のあのプレーを消すことはできない。それなのにナイフのように言葉を投げつけた記者は、あっさりとその発言を削除できるなんて、全然フェアじゃないよ。野球選手が二度とプレーをやり直せないように、あなただってずっと、ずっと、その投げつけた言葉を背負って生きていくべきじゃないの。

しばらくして、一つの発見が頭をよぎる

 全ての感情が溢れて空っぽになった。でもしばらくして、一つの発見が頭をよぎる。今まで散々目にしてきて、そのつど勝手に傷ついてきた倉本バッシングの声。でもそれは、言葉のプロである新聞社の記者でさえ簡単に削除してしまうぐらいの、軽いものだった。一生背負う覚悟もない言葉だった。路上に唾を吐き捨てるように放たれた軽い言葉に、心をかき乱される必要なんてないんだと。この時私は初めて気がついたのだ。

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 クローゼットの奥に眠る、背番号5のユニフォーム。躑躅色の糸で「かっとばせ 見せろ男意気」と縫い込まれたユニフォームを取りだす。大事なのはこれだ。私の気持ちだ。倉本を応援したいと思う気持ちだ。あなたがあなたを諦めない限り、私はずっと、あなたを信じています。ユニフォームをぎゅっと抱きしめた。

倉本は批判にも負けずにプレーを続ける ©文藝春秋

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