その後、街で暮らし続けたロメルたちだったが、30年前、先住民の土地の権利が認められ始めたことをきっかけにして、元々暮らしていたとされる場所に「モンテ・サルバード」を建設。バナナやキャッサバなど農作物の栽培と、狩猟、釣りを中心に、自給自足に近い生活を始めた。2002年には先住民居住地に認定され、集落とその周辺は、住民以外が木材を伐採したり狩猟や漁をすることを禁止した。人々はかつてのような“森での暮らし”への回帰も目指した。同じ時期、政府はイゾラドが暮らす森を「保護区域」に指定。こちらは、外部の人間の立ち入りを一切禁じた。
そして10年前。ロメルたちの目の前に、ついに彼らが現れたのだ。
「イゾラドはもういないと言われていたから、出会うなんて思ってもみなかった。彼らが現れた時、“どこから来たの?”と聞くと“この川の上流から来た”と、集落と同じ先住民の言葉で答えた。びっくりしたし、感動もした」と当時をしみじみと振り返るロメル。
集落の人が保護官となり、保護区域の境目にある監視所で、イゾラドを守る活動を続けてきたのだ。ノモレ(親戚)であるイゾラドを保護していく。それは、ロメルたちにとって、祖先から語り継がれてきた自分たちのルーツを守る営みでもあるのだ。
イゾラドを知るために森へ
川を奥へ奥へと遡ること3日。最果ての集落「モンテ・サルバード」に到着した私たち。集落では男たちがパトロールを行っていた。なぜ、イゾラドは自分たちに矢を射ってきたのか。ロメルたちには、イゾラドとのやりとりで気になっていた言葉があった。
「ムカチリ」。「服」を意味する先住民の言葉だ。実は、イゾラドはロメルたちとのやりとりの中で、何度も、このムカチリという言葉を使ったという。「ムカチリ(服)を着た人が悪い」「お前たちはムカチリを着ているから悪いやつだ」と繰り返し訴えてきたというのだ。
ムカチリを着た人とは誰のことを指しているのか。答えを求め、ロメルたちと共に森に分け入り、集落の男性が矢で襲われた現場に向かうと、近くにイゾラドが滞在していたと思われる場所を発見した。
椰子の葉っぱを突き刺して作った簡易な寝床のキャンプ跡、そこに「ムカチリを着た人」の手がかりとなる、ある物が残されていた。

